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家族になる方法

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それからしばらく、ファルトはうちに来ることもなくなり、当然お昼だって別々に食べてしまっている。


…避けられているのだ。


私は、ファルトに嫌われた…?

シンシアさんのことで苦しんでいたファルトだけど、そんな彼女を虐める私のことだってそれ以上に嫌悪したって仕方ないことかもしれない。


虐めてはいない。

そう思うけど、彼女の頬を叩いてしまったことには変わりないから何とも言えなかった。


事情を話して許しを請いたい気持ちはやまやまなのに、明確な拒絶を示されることを恐れて声をかけることすらできていない現状だ。



ファルトと仲違いした今、ぽつんと食堂の隅で一人お昼をとっている。



ファルトの声が聞きたい。


…寂しい。



ちらりと食堂の中央の一角を見つめると、彼は生徒会の仲間達と過ごしているようだ。


こうやって彼の姿を見ることができる場所に陣取って、こそこそと観察している自分が情けない。


…彼は、また何か傷ついていないだろうか。



パッと見は、無表情。

もくもくと食事に手をつけている印象。


シンシアさんがちょこちょこ何か話しかけているようだけど、少し言葉を返すとまた食べ進める。



ファルトのそばにいるだけで、最早羨ましい。


しょんぼりした顔で見つめていると、ふいに彼がこちらに視線を向けた。


「っあ…」


目が合ったことに一瞬だけ驚いたような表情を浮かべると、ふいっと視線を逸らしてしまった。


…痛い。


なんだか胸が締め付けられるようで苦しい。



ファルトに拒絶されてしまったのだ。



とてもそのまま食事を進める気にはなれず、苦々しい気持ちで食堂を後にした。



その後の授業は当たり前だけど全くもって身に入ることはなく、気がつくと馬車で自宅に送り届けられていた。



「…お前がファルトに嫌われる日が来るなんてな」

「うるさいですよ、ラルフ兄様」


完全にからかったような口調で声をかけてくる兄様をキッと睨みつけた。



「やれやれ、思春期の少年少女は大変だな」


「…兄様なんて嫌いです。ファルトは、平気なんでしょうか」

「それはファルトに聞かないとわからないだろ」


うっ、そんなことはわかっているのだ。

兄様に言われなくとも。



「サラ、お前はよくファルトの姉ぶっていたが、こういう時は逃げるのか?」


ラルフ兄様の言葉がやけに胸に響いた。



「そんな中途半端な人間の弟ではファルトの苦労も偲ばれる。お前はあの子の姉には向いてないよ」


「っ、そんなことわかってます…ファルトは私のこと姉だと思ったことなんてきっとない」


頼りない私をそこまでファルトが信頼してくれているとは思えなかった。


「なんだ、気づいていたのか。だったらサラはこれからファルトとどんな関係を築いていくんだ?」

「どんな関係…?」


「お前がもう少し大人にならなければ、ファルトはきっとこの先も苦労することになるだろうな」


兄様はやれやれと肩を竦めてそんなことを言った。


ぐっと唇を噛み締める。


一番つらいのはファルトなのに、どうして私が悲しむことができるだろうか。

私はファルトの姉のようなもので…


ファルトを守らなきゃいけないのに。



…本当に?


ファルトはそんなに弱い人間だった?



ファルトにとっての私って、いったいどういう存在なのだろう。



「私はファルトの一番近くにいたかったんです。家族に、なりたかった」

「お前のお子様脳は相変わらずどうしてそう短絡的なんだ」


「どういう意味です!」


馬鹿にした笑みを浮かべるラルフ兄様にムッとしてしまった。



「他人が家族になる方法だったら、もっと確実で簡単な方法が他にもあることに気が付かないのか?」


「…兄様?」


「とにかくお前はうじうじ悩むよりもさっさとファルトを捕まえて来い」


その言葉を最後に、ラルフ兄様は執務室に戻っていった。



今週は今日でもう学校は終わり。


来週になったら、きっと…


きっとファルトと仲直りしよう。



____そう解決を先延ばしにしてしまったことを、私は後悔することになる。







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