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不理解

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翌日、私はシンシアさんと話をするために放課後空き教室に彼女を呼び出した。

彼女が中心となってファルトの過去に干渉していることはわかっていた。

きっと彼女が変わると周りも理解を示してくれるのではないかと思う。


「あの、私にご用とは?」

「来てくれてありがとうございます、シンシアさん。ファルトのことでお話があって」


そう言うと彼女はその大きな桃色の瞳を数回瞬かせた。



「単刀直入に言います」

ぎゅっと手を握りしめて口を開く。


「ファルトの傷をこれ以上抉らないであげてくれませんか」

「傷を、抉る…?」


「ファルトにはまだ時間が必要なんです。彼はまだ自身の過去を昇華できていません。そんな状態のファルトを下手につっつくのはあまりにも酷です…」


彼の負ってしまった傷はあまりにも深くて、今もなお血を流し続けているのだ。


「私はただっ、ファルト様を救いたくて!決して彼を苦しめてなんていません!」

「あなたに悪気がないのはわかっています。それでも、何気ない誰かの言葉でファルトの心はあっという間に壊れてしまうの…ギリギリのところで、彼はいつも生きているんです」


せっかく少しずつ以前の彼のような温かい笑顔を取り戻せていたところなのだ。

もうこれ以上彼が傷つくところはみたくない。


「どうして…そんな意地悪なこと言うんですかっ?あなたはただ、私が彼と近づくことが嫌なだけなのでは?」

思いもよらない言葉を返されて僅かに目を見開いてしまう。


彼女には私の言葉が独占欲から来る意地の悪い戯言に聞こえたのだろうか。



「ファルト様を本当に思っているのなら、私に任せてください!彼は過去を乗り越えなきゃいけませんっ!あなたが甘やかしてばかりいるから彼はずっと過去から逃げ続ける弱い人間のままなんでしょう!?」


「ファルトは弱くなんてない!!何も知らないくせに適当なこと言わないでっ!」


パシンッ

シンシアさんの言葉に、気づいた時には自分の手を振りかざしていて、目の前には頬をおさえた彼女が呆然としてこちらを見つめていた。



「っ、私…ごめんなさい、シンシアさん」


「あなたは最低ですっ!今私をぶったことが、あなたがファルト様のことを思っていない証拠だわ!本当に彼のためを思うのなら、彼と仲の良い私を傷つけるわけがありません!」


衝動的に彼女を叩いてしまった右手をぎゅっと握りしめて、ただただシンシアさんの言葉を聞いていた。


打たれた頬は少し赤くなっていて、罪悪感が込み上げる。



「彼を傷つけるのは私じゃなくて、きっとあなたです!こんなにも簡単に人に暴力を振るうあなたには彼の隣に並ぶ資格はないと思いますっ!」


「…っ、叩いてしまったことは本当に申し訳なく思っています!だけど、あなただってもう少し人の話を聞いてくれても…」


全面的に私が悪いとしても、それでも、これだけはわかって欲しい。


「彼は本当に弱くなんてありません…今、必死に過去を受け止めてる途中なの。だから、もう少しだけそっとして置いてくれませんか?きっと彼の中でキリがついたら、あなたにもしっかり話してくれるはずです!」

「そうやって、私を仲間外れにしたいだけなのでは?今までファルト様の支えは確かにサラ様だけだったのかもしれませんが、これからは私がいるんです!それに、みんなだって…私はファルト様に過去を受け入れて、強くなって欲しいの!」


だから、今彼は必死に受け入れる努力をしているのに…


どうしてわかってあげないの?


あなたに、そして生徒会の皆さんにどれだけの覚悟があったとしても、そういう問題ではないのだ。


これは彼が自分でしっかり解決することで、私達は彼がつらい時に支えてあげることしかできない。



「お願いだから…ファルトの邪魔をしないで!」

口に出してから、ひどい言い回しだと思った。

彼女は善意でファルトに何かしてあげたいと思って行動しているのだから。


だけど、もうどうやってシンシアさんにわかってもらえたらいいのかわからなかった。



「私達の可愛い小鳥に随分な言い方だな?」


「レオ様!」

ガラリと扉が開き、入ってきたのは公爵子息のレオナルド様だった。


「シンシア、遅くなってすまない」

「っ、来てくれて…嬉しいです」


副会長がやって来て安心したのか、シンシアさんの綺麗な瞳がみるみると潤んでいく。

ぽとりと雫が頬をつたった時、レオナルド様が眉間に深い皺を刻むのが見えた。


「その頬は、どうした?」

「実は、サラ様に…あっ、でも、私が悪いんです…私がファルト様にいつもしつこく付きまとってしまうから…」


ひどく誤解を生む言い回しを好む方だ。


しかし、叩いてしまったのは私だから弁解の余地もない。


「それは本当か?」

「はい、私が叩きました」


素直に頷く私を凍てつくような冷たい瞳で睨みつけるレオナルド様にさすがに肩が震える。

自分を律するように体に力をこめた。



「ファルトと幼馴染だかなんだか知らないが、あいつの友好関係にまで口を挟むなんて傲慢が過ぎるんじゃないか?チェインズ公爵家がファルトを何かと手助けしていたことは知っているが、それはお前がファルトを自由に扱っていいことではない!」

「そんなことわかっています」


「だったらファルトを解放しろ!お前のせいでファルトは前に進めないんじゃないのか!」


どうして、みんなファルトを無理にでも前に進ませようとするの?


あんなに苦しんでるのに…

もう少し、せめて学園を卒業する間だけでも、自由にさせてあげたいと思うのは、悪いことなの?


私は彼のペースで向き合っていって欲しいだけた。


少し強引に踏み込まれただけで、彼は夜も眠れずに倒れてしまう程だというのに。



「…彼は、自分を傷つけてまで、誰のために…過去を乗り越えるのですか…?」


それは本当に、ファルトのためなの?


彼が一度でも過去を乗り越えたいから手伝ってくださいなんて、頼んだ?


もう、自分達のエゴと偽善で、優しい彼を傷つけて欲しくない。






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