上 下
3 / 13

生徒会の彼女

しおりを挟む




学園でのお昼はいつもファルトと食堂で食べていた。


「…なんか、サラのシーフードパスタの方が美味しそう。そっちにしたら良かったかも」

「ファルト、あなたそれ毎日言ってるわよ?隣の芝生は青く見えるって本当ね」

「サラの食べてるものは美味しそうに見えるんだよ」


ぷくっと頬を膨らませて拗ねるファルト。

こんなに可愛い十七歳ってなかなかいないんじゃないかな。



「はぁ、仕方ないなぁ。私のパスタも食べる?」

「食べる」

そう言ってファルトはあーんと大きく口を開く。


「…これも毎回言ってるけど、口を開けるんじゃなくてフォークを持ってくれない?」

「サラのけち。俺最近すごい疲れてるんだよ?口に食べ物運んでくれるくらいしてくれてもいいと思うんだ」


「……はぁ、いつまでたっても子どもなんだから」

そう言うと彼は目付きを鋭くさせたものの、依然として口は大きく開いたまま。


渋々くるくるとパスタを巻き付けたフォークを彼に運ぶと嬉しそうにパクリと口に含んだ。


「美味しい?」

「ん、美味しい。ありがとサラ」


満足そうなファルトに僅かに笑みがこぼれる。

私も大概彼に甘い。


彼がパクパクとお昼を食べ進めるのを見守りながら、私は自分のパスタに口をつける。


…うん、ちゃんと食べられてるみたいで良かった。


あまり眠れないようだけど、とりあえず昼と夜はご飯を食べていることは確認できている。


安心してランチを楽しんでいた時だった。



「ファルト様!いつも学食で昼食を召し上がっていたんですねっ」

そんな綺麗なソプラノの声が響いた。


「…シンシア嬢」

「生徒会のみんなで食べようっていつも言ってるのに、全然来てくれないんですから!もう、私怒っちゃいますよっ?」


可愛らしく唇を尖らせる彼女こそ、男性ばかりの生徒会の紅一点である一年生のシンシアさんなのだろう。

そして、この彼女が…ファルトを苦しめている要因の一人。


淡い橙のサラサラとしたロングヘアに透き通るような桃色の瞳が華やかな美少女だった。


「お昼は彼女と過ごすことに決めてるんだ」

ファルトは笑顔でそう返事を返した。



「え…でも、ファルト様は確か婚約者などはいませんでしたよね??」

「婚約者ではないよ。こちらはサラ、幼馴染なんだ」


私とファルトが婚約者だなんて、有り得ない話だ。

想像したら面白くて少し笑ってしまう。


「初めまして、ファルトの幼馴染で、チェインズ公爵家のサラ・チェインズです。以後お見知り置きを」

「私はシンシアです!」


家名も名乗らないやけにあっさりとした挨拶になんとなく私は彼女に好かれていないのかもしれないと感じた。

顔色を窺うも、表情は終始にこにこしていて掴みどころのない人だと思う。



「あのっ、婚約者でもない女性と昼食なんて、何か誤解が生まれてしまうんじゃ…」

「お互い決まった相手もいないから大丈夫だと思うよ。別に誰かに迷惑をかけているわけでもないしね」


「でもっ、これから二人ともそれぞれ別の相手と一緒になるかもしれないんだし、そういうことも考えた方がいいと思います…あ、私なんかが差し出がましかったですね、ごめんなさい…でも、やっぱり距離が近すぎるのも二人のためじゃないから…」


彼女は私達の何を知って、このような苦言を呈してくるのだろうか。

二人のためじゃないなんて、そんなこと余計なお世話だ。


「ははっ、わざわざありがとう。でも大丈夫だよ。もしも何かあったら俺はサラに貰ってもらうから」

「ファルト様、冗談を言ってる場合じゃ…」


「冗談じゃないよ?サラだって俺の事大好きだし。ね、そうでしょ?」

「ファルト、最近あなたあざとすぎる気がする」


彼は自分の容姿が整っていることを自覚してこんなことを言ってくるのだ。

こてんと首を傾げる様は小悪魔な本性を理解していても破壊力抜群だ。


「とにかく俺のことは心配しなくて大丈夫だから。シンシア嬢はみんなとご飯食べてきな?ほら、向こうでレオ先輩達がシンシアのこと待ってるよ」


ファルトの視線の先を辿ると男性が二人テーブルについてこちらを見つめていた。


彼らは確か、共にファルトと同じ生徒会の方々だったと記憶している。


輝かしい金髪の方は副会長で公爵令息のレオナルド・オルガード様で、落ち着いた黒髪の彼は生徒会役員で伯爵令息のアイザック・バーン様だ。


「そうです、みんな待ってくれてるんです!だから早くファルト様も行きましょう?」


…どうしてそうなるの。

ファルトをちらりと一瞥すると困ったように眉を垂らして苦笑を浮かべていた。



「あの、今日のところはファルトも食べている途中で移動するわけにも行かないし、私に譲って頂けませんか?」

「…サラ様」


「シンシアさんも早く昼食をとらないと、午後の授業が始まってしまいますし…」


シンシアさんは納得いかないといった表情を隠すことなく私を見つめていた。

それでも渋々諦めてくれて、捨て台詞をはいて私たちの前を去っていく。


「あんまりファルト様のこと縛り付けないであげてくださいねっ」


……ああ、私、彼女のこと苦手みたい。



「俺、サラに縛られてるなんて思ったことないからね」

「ええ、わかってる」


「ごめん今はタイミング逃しちゃったけど集まりの時しっかり言っておくから」


ファルトは心底申し訳なさそうにそう言うと、頭痛を耐えるようにこめかみを押さえていた。


「あんまり無理しないようにね。別に私は気にしてないから」

「うん、ありがとう。ちゃんと話してくるから、サラは公爵邸で俺のこと待ってて」

「うん」


なんだか不安だ。

ファルトがつらい思いをすることがなければいいのだけど。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

円満に婚約解消したので、私も運命の恋を探します。

のんのこ
恋愛
「運命の人をみつけた」そんな理由で第二王子との婚約を解消した侯爵令嬢ソフィアが、自身も運命を見つけるため婚活を決意する話。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。

藍川みいな
恋愛
タイトル変更しました。 「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」 十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。 父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。 食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。 父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。 その時、あなた達は後悔することになる。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

私の優しい世界は、どうやらぶち壊されてしまうらしい。

のんのこ
恋愛
貴族社会のとある学園、生徒会役員の侯爵令嬢が、平民上がりの伯爵令嬢に居場所を奪われて苦しむ話。 ※ハピエンです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜

なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...