婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。

のんのこ

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ひまなのよ

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私がアレスの家にやってきて数日、彼は毎日ご機嫌でにこにこ笑って過ごしていた。

それはもうおはようからおやすみまで。


一部例外があるとするなら彼が騎士の仕事で家を開ける時のみ。

毎朝三十分は玄関先で粘っているのだから驚きだ。


「…あ~なんか今日は体調が悪い気がするな~俺」

「顔色もいいし、朝食までは元気いっぱいだったじゃない」

「朝食があたったのかも?」

「私も同じ物食べたんだけど」


こんな調子でいつもだらだらと出発しちゃうからアレスはちゃんと遅刻せずにお仕事に行けているのだろうか。

同僚に迷惑をかけてなければいいのだけど。



そんなことを思いながらぼんやりとお茶を嗜んでいた。

学園を卒業してしばらく、本当にやることがないのだ。


アレスが二年も戦争に行っていたから花嫁修業やその他の教育を行う時間が有り余っていたぶん、今になって手持ち無沙汰だ。



「ルーカス」

「なんでございましょう?」


「…アレスが訓練場には来るなって言ったんだけどね」

「はあ…」


次の私の言葉が予想できたのか、その執事は少しだけ顔をしかめた。

この人はあえてあからさまに表情に出している気がする。



「……どうしても、暇なのよ」

「そうですか」


「ストレスでどうにかなっちゃいそうだわ」

「では退屈しのぎに書庫にでも行ってみますか?アレス様が戦地から集めた珍しい本なんかも取り揃えてありますよ」



そういうことじゃないの。

わかっているのにわざと話をはぐらかすルーカス。


私は笑みを浮かべで口を開いた。



「訓練場に、行きたいの」

「………アレス様が許可されなかったのでは?」


「そうねえ、王宮で働くお兄様に用があってたまたま足を運んだら、道に迷って騎士団の訓練場にたどり着いてしまったとしたら、仕方ないんじゃないかしら?…ルーカスはどう思う?」

「ええ、まあ、無理があると思いますね」


あっさりとしたルーカスの言葉にぷっくりと頬を膨らませる。

私はもう一度アレスのかっこいい姿を見たいだけなのに。


「アレスは確か今日は午前中だけ城門の監視で、午後からは訓練だけだったわね」

「……はあ」


「そうよね、じゃあ…まずはキッチンに行きましょうルーカス!」


そう言うと彼は困ったような笑みを浮かべて私の後ろについて部屋を後にした。



「では、今から定番の蜂蜜レモンドリンクを作っていきたいと思います。助手のルーカスはレモンを洗ってくれる?」

「私はいつから執事ではなくルイーゼ様の助手になってしまったのでしょうか」

「ノリが悪いんじゃない?」


なんだか疲れた様子のルーカスだけど、任せたレモンは丁寧に水で洗って水分を拭き取ってくれている。


次々と洗われていくレモンを輪切りにしていくと何も言わずとも蜂蜜や容器を準備ししてくれるのだがさすが有能執事だ。


「あとはできた原液に水を加えて…うん、上出来ね!」


スプーンで一口救って味見してみると優しい甘酸っぱさが美味しくて頬が緩む。


「これでアレスのご機嫌とりもばっちり」

「…だったらいいですねぇ」


どこか投げやりにそんなことを言うルーカスを横目で睨むと小さくため息をつかれた。


「行くよ、ルーカス」

「かしこまりました…」


乗り気じゃないルーカスを連れて、私たちは騎士団の訓練場へと足を運ぶのだった。



訓練場に到着すると、騎士団の方々が訓練をしている光景の中にアレスの姿は発見できなかった。


…もしかして午前の仕事が終わって昼食でもとっているのだろうか。

タイミングが悪かったようだ。



きょろきょろと視線をさ迷わせていると、なんだか視線がこちらに集まってくるのを感じる。


…見られてる?


訓練をしていた人々がチラチラとこちらの様子を窺っているのだ。



「…私、完全に訓練の邪魔しちゃってる?」

「これくらいのことで集中を欠くような半端な方々ではないと思っていたのですが…」


ルーカスが慰めのような言葉を言ってくれるけど、やはり申し訳なくなってしまう。

私が浅はかだった。



どうしたものかと考えていると、一人の騎士とバッチリと視線が噛み合った。


…アレスと仲良くしていた女性の騎士だ。


マーナさんだったよね、確か。



なんとなく気まずくて眉が下がっていくのを自覚する。





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