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あんしんできない
しおりを挟む「つまり、マーナに嫉妬したってこと?」
訓練場でのことを話し終わって、幾分か機嫌の良くなったアレスが尋ねる。
簡潔にまとめられてしまうと少し恥ずかしい。
「マーナさんって言うんだ」
彼の口から敬称も何もつけない女性の名前が出てきたことに少しショックだった。
今までアレスが女性と親しくなることなんて一度もなかったから尚更。
彼女だって今はこの国の騎士でアレスの仲間なのだから仕方ないのだけど。
「アレスが敵軍から引き抜いたって聞いた」
「うん、そうそう。マーナは女でありながら他の騎士にも負けず劣らずで正直驚いたよ。だけど女って理由で戦の中では囮にされたり、とにかく酷い扱いを受けてたから…それならこっちに引き抜いちゃえばいいかなって思って。幸い根っからの脳筋みたいだったから、一度剣で負かしたら俺のことも信頼してくれたみたいで。そんなわけだから、マーナは別にルイーゼが心配するような女じゃないよ?」
……え?
全然安心できないのは私だけ?
つまり、劣悪な環境から救ってくれたアレスに、恋愛的な意味じゃないにしても惚れ込んで着いてきてくれたんでしょう?
心配するような女じゃない、か。
アレスの言葉は信じたいけど、アレスだけの言葉で完全に不安をぬぐい去るなんて不可能だ。
恋愛は一人でできるものじゃないのだから。
「…安心できないって顔だ?」
「だって」
「ふっ、やっぱりルイーゼが一番可愛い。一番愛しい」
クスクス笑ってそんなことを言うアレス。
「二番がいるの?」
「いるわけないだろバカ」
ちょっとだけ睨まれてしまった。
「また、訓練場に行ってもいい?」
「それはダメ」
なんだか今なら許してくれるんじゃないかと思って聞いて見たけど、アレスの答えはノーだった。
「どうして?」
「そんな不安そうな顔しないで?…訓練場なんてあんなとこ野蛮な狼の巣窟だからね。俺のルイーゼがそんな奴らの視界に入ることすら虫唾が走る。今日訓練場でルイーゼの姿を見かけた俺の気持ちわかる!?あれは本当に焦ったから!今まで獣共がルイーゼに興味を持たないように必死に隠してきたのに水の泡だよ!!もう!!」
アレスは興奮したように早口で捲し立てる。
顔が真っ赤で、必死になる彼が可愛く思えた。
なんだ…そういう理由だったんだ。
「私はてっきり、婚約者がいることがバレたら不都合なことでもあるのかと」
「なわけないから。騎士団なんて訓練漬けで大した楽しみもないような連中なんだから、ちょっとでもゴシップネタがあったら野次馬精神でしつこく探ってくるんだって。最終的にはルイーゼを連れてこいなんて言い出すんだよ。俺のルイーゼなのに」
心底嫌そうな表情でそんなことを言うアレスにときめいてしまう自分がいた。
自分の嫉妬は醜いと思うのに、アレスだったらこんなに愛しく思えるんだから不思議だ。
「だけど私はアレスの大切な仲間であって友人である人達にちゃんと挨拶したいのに」
「…恋人や婚約者を愛しながら夜な夜な娼婦で欲を発散するろうな連中となんてルイーゼは関わらなくていいよ」
随分な言い方に呆れてしまう。
だけどそれと同時にアレスの婚約者で良かったと心の底から思った。
こんなに私のことを愛してくれる人なんてきっと他にはいないだろう。
「欲に飢えた獣だよほんとに」
「そんなこと言わないの。…男の人の事情はよくわからないけど、ほら、発散しなきゃいけないって聞くし」
何を言ってるんだ私は。
「そんなの自家発電で十分だろ」
「っ…アレスも?」
「そりゃあ、生理現象だしねぇ?その節はルイーゼの写真にたくさんお世話になりました」
「バカ!!!!!」
アレスはたまにすっごく下品だ。
どうして男の人のそんな事情を婚約者に赤裸々に語ってしまえるのか。
「だけど、戦争からも戻って来れたし…これからは生のルイーゼがいるからもう右手とお友達になる必要もないよね」
「右手と…お友達…?」
「これからは我慢せずにルイーゼのこといっぱい抱けるってこと」
「…っ、アレスの変態」
なんだか戦争から帰ってきてますますえっちになってしまっている気がする。
以前だって大概だったけど。
「自分から俺の家に泊まりに来といて何言ってんの。今までは近くにゼノもいたし我慢してたんだよ?寧ろ褒めてほしいくらいだ」
そう言って近づいてくるアレスは口元に浮かぶ笑みとは裏腹に、瞳だけは獰猛な肉食獣の様にギラついていた。
「二年ぶりだし、手加減できないかも」
「…そんな体力ないよ私」
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