2 / 26
おかえりなさい
しおりを挟む戦争に勝利したラミティカ軍が帰還したのは、それから二年後のことだった。
終戦の報せを受けて、今か今かと彼の帰宅を待ち続けて約十日。
ついに今日、アレスが帰ってくる。
報せを受けてからはそわそわとして落ち着かない日々が続いた。
夜だってなかなか寝付けなくて、必死に眠気を誘うハーブティーを飲んだり、軽く運動してみたりしたものだ。
アレスと会った時、前よりブサイクになったなんて思われたくなかったから。
そしてお昼を回った頃、
「お嬢様、アレス様がお見えに!」
自室で待機していた私に、侍女が嬉しそうにそんな言葉を告げた。
返事も返さずパタパタと走って玄関に向かう私を、いつもマナーにうるさい侍女長ですらこの日は文句をつけることはしなかった。
そして見える大好きな彼の姿。
___ああ、涙で視界が霞む。
「っ、あ…アレスっ」
涙声の情けない声色だった。
一目散に彼に駆け寄ると、彼は何も言わず、その温かな腕で強く強く私を包み込んだ。
「やばい…ルイーゼだ…本物の」
「っ、偽物の私なんて、いないわ」
耳元で感じる彼の声も泣いていた。
首元を彼のサラサラとした金髪が擽る。
こんな些細なことでも懐かしくて、涙が出るほど嬉しかった。
「…アレス、おかえり」
彼の胸に頭をぐりぐりと押し付けながらそう言うと、私の背に回る腕に力が籠る。
苦しいのに、今はもっといっぱい抱きしめてほしい。
「アレスの腕の中、あったかい」
「……」
「アレス?」
やけに反応のない彼を不思議に思って名前を呼ぶ。
「…ルイーゼ」
「なに?」
「なんかもう、ルイーゼが愛おしすぎて頭おかしくなりそう」
ぽぽぽっと自分の頬に熱が集まるのがわかった。
以前から甘い言葉をたくさん使う人だったけど、久しぶりすぎてダメージが大きい。
「…私も、アレスのこと大好き」
「もう可愛い、可愛すぎる。ちょっとルイーゼ俺がいなかった間悪い虫とか付いてないよね?そんなの俺死んじゃうからね?」
「そんなの、ついてません」
ずっとずっとアレスを想い続けてきたのに、そんなことを言われるのは少し悲しかった。
きゅっと彼の騎士服の裾を掴む。
「…拗ねちゃった?」
「私はアレスだけなのに」
そう小さく呟くと、彼は優しく私の肩に手を置き、唇にそっと触れるだけのキスを落とした。
「ごめん、わかってるよ。俺が勝手に不安になっただけ。俺の可愛いルイーゼに命知らずのバカが変な気起こしてないか」
もう一度私を抱きしめ直したアレスがそんなことを言う。
「戦況が悪い時なんかはたまに婚約の申し込みを受けたりしてたけどな」
「兄様は黙ってて!」
ふいに通りかかったゼノ兄様はアレスにそれだけ言うとさっさとどこかへ行ってしまう。
「…え、何それ、どういうこと?ちよっと言ってる意味がわかんないんだけど」
「しっかり断ったから!」
「や、それは当たり前だけど。ルイーゼって俺の婚約者じゃなかったっけ?」
「うん、アレスの婚約者だよ…?」
だから、少し落ち着きましょう?
「え、じゃあ、なんでルイーゼに婚約の申し込みなんて来んの…?」
「さあ?」
わなわなと震えながら考え込むアレス。
彼は頭を私の肩口に押し付けてぶつぶつと何かを呟いている。
「俺のルイーゼなのに…意味わかんない…全員見つけ次第始末しないと…」
なんだか不穏なことを考えているように思えるのは気のせいだろうか。
「あの、そろそろ離れて?」
「えぇ俺もっとルイーゼにくっついてたいんだけど」
「もう十分でしょう!?少しだけ恥ずかしいの…」
「恥ずかしがるルイーゼも可愛いっ…!」
ますます腕に力を込め始めるアレスに困ってしまう。
離してほしいと言っているのに。
結局彼は再び通りかかったゼノ兄様に呆れながら引き離されるまで、玄関先でしばらく私を抱きしめ続けるのだった。
70
お気に入りに追加
1,550
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が肉食系女子にロックオンされています
キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19)
彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。
幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。
そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。
最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。
最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。
結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。
一話完結の読み切りです。
従っていつも以上にご都合主義です。
誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる