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番外編
モーガン・フォージャーの末路①
しおりを挟むSide モーガン前侯爵
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
…いったい、どこで間違った?
あの日、レイナを殺し、約二年もの間長い時間をかけて遂行してきた計画。
機は熟し、妻のリイサを闇に葬り去って、ようやく愛しいあの子と幸せになれるはずだった。
まさか、ミレイユに寝首をかかれるとは。
飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのことだろう。
「なんとか、なんとかしなければ…」
私が送られる監獄は、その劣悪さ故に王都からは随分離れたところに位置している。
まだまだ時間がかかるはずだ。
その前に、どうにかして脱出しなくてはならない。
「おい、お前、金ならやる!私を逃がせ!お前なんかが一生働いても稼げない金額だぞれ!」
同乗の監視にそんな話を持ちかけても、その男は侮蔑的な目でこちらを一瞥すると、返事を返しもせず視線を逸らした。
こんな屈辱は初めてだ。
「貴様っ、くそ、必ず思い知らせてやる!おい、御者、馬車を止めろ!」
「ええい、うるさい!罪人は大人しくしていろ!!」
「ぐあっ」
あろうことか監視の男は拳を振り上げ、私の顔を殴ったのだった。
高位貴族に、なんということを!
「貴様っ、どこまでも私をこけにしおって…!」
絶対に復讐してやる。
そう心に誓った。
そんな私を肯定するかのように、しばらくすると一度大きく揺れて、馬車はぴたりと動かなくなった。
ようやく私を降ろす気になったか…?
「どういうことだ」
不信げに同乗の男が呟き、扉を開いた時。
ザシュッ
そんな音と共に、真っ赤な飛沫が上がる。
鼻先に感じる鉄臭い匂いに、何が起こったか理解するのに時間を要した。
「っ、ひぃ」
倒れ込む男の表情には、最早生気など微塵も感じられない。
「どーも、侯爵様。ああ、もう侯爵じゃねえんだったか?今じゃ立派な犯罪者だもんなぁ」
にやにやと下卑た笑みを浮かべて扉から顔を覗かせるその男に、私は見覚えがあった。
胸に一縷の希望を抱く。
「お前!私を助けに来たのか!」
それは、私がレイナやリイサを葬る際に雇っていた暗殺者の一人だった。
私が捕まったことで、自分達にも被害が及ぶことを懸念したのだろう。
…助かった。
舞い上がる私をよそに、男は嘲笑めいた口調で言葉を口にした。
「相変わらずおめでたい野郎だなぁ。俺たちの今回の雇い主はお前じゃねえんだよ。お前もよく知ってるこのご婦人だ」
「ご婦人…?」
不思議に思って眉を寄せる私に、男の背後に人影があるのに気づいた。
その女を見て、愕然とする。
驚き目を見開いた私に、彼女は穏やかな笑みを浮かべて口を開くのだった。
「お久しぶりね、あなた」
「…りぃ、さ…?お前っ、どうして」
現れたのは、亡くなったはずのリイサ。
自ら人を雇って殺めた、私の妻だった女だ。
思考が停止するというのは、まさしくこのことだろう。
理解し難い事態に、口をパクパクさせることしかできなかった。
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