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山道 sideミレイユ

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Side ミレイユ

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫


____走り続けた。


履いていた室内履きが最早原型をなくし、足の裏が傷だらけになっても、山道の木々で、メイド服がボロボロになっても、私は足を止めなかった。



あの男が大した怪我を負っていないことがわかっていたから。


震えた腕では、肩口に傷をつけるくらいで精一杯だった。



形見のナイフは、動揺して置いてきてしまった。

それだけが、心残りである。



そうして、もう一歩も動けないと、地面に倒れ込んだ時には、すっかり夜になっていた。



力が抜けた私は、急に不安になって涙が零れそうになる。

相も変わらず山道。


人気はなく、治安が悪いとは思えないが、人でなくとも獰猛な獣の数匹は襲いかかってくるのではないか。


そんな時、対抗する手段の一つもない私は、やはりペロリと食べられてしまうだろう。



なんともグロテスクな描写を想像してしまい、背筋が震えた。



こんなところに蹲っていてはダメだ。

そう思うのに、体が言うことを聞いてくれない。



___幸せになって。


幻の中で告げられた言葉を叶えるためには、自分の足でしっかり立ち上がらなければならないのに。



そうわかってはいるのだが、今の私には、幸せなんて曖昧なもののために頑張れる気力なんかなかった。



私の幸せは、このままここで息絶えて、最愛の両親の元へ向かうことなのではないか。

そんな不穏な考えさえ湧いてくる始末だ。



自分がどこへ向かって、何をすべきなのか、一寸先すら見えない絶望が心を蝕む。



小さなため息をついて、顔を上げた時だった。


「…っ、」


暗闇の中に、何かキラリと光るものを見た気がした。



獣の唸り声のような、低い音が耳に届く。



ザリザリと地面を擦って歩く足音は、だんだんとこちらに近づいて来る様だった。



「っ、や…来ないで」



先程抱いた死への覚悟なんて、一瞬で砕け散ってしまう程、私の心を支配するのは恐怖一色。


死にたくない。


死ぬ間際に思うことは、皆同じなのかもしれない。




「っ、ひ」



明けない視界の中、獣特有の荒い呼吸だけが辺りに響き渡る。




疲れた体に鞭を売ってなんとか立ち上がるも、足取りは重かった。



ふらふらと後ろ歩きで進む私を、獣の黒い影は見逃してくれないようで、一定の距離感で詰め寄ってくる。



「、いやっ、」


意を決して、くるりと背を向けて、走り出した。




後ろから、何かが高く飛びかかった気配を感じる。



「きゃぁっ!」



背中に重みを受けながら、覚束無い視界の中、私は斜面を転がり落ちるのだった。



獣に襲われて死ぬのか、山道を転落して死ぬのか、私の死因はいったいどっちなのだろう。




「わんっ」



背後で、そんな平和ぼけした鳴き声が聞こえた気がした。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫



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