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山道 sideミレイユ
しおりを挟むSide ミレイユ
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____走り続けた。
履いていた室内履きが最早原型をなくし、足の裏が傷だらけになっても、山道の木々で、メイド服がボロボロになっても、私は足を止めなかった。
あの男が大した怪我を負っていないことがわかっていたから。
震えた腕では、肩口に傷をつけるくらいで精一杯だった。
形見のナイフは、動揺して置いてきてしまった。
それだけが、心残りである。
そうして、もう一歩も動けないと、地面に倒れ込んだ時には、すっかり夜になっていた。
力が抜けた私は、急に不安になって涙が零れそうになる。
相も変わらず山道。
人気はなく、治安が悪いとは思えないが、人でなくとも獰猛な獣の数匹は襲いかかってくるのではないか。
そんな時、対抗する手段の一つもない私は、やはりペロリと食べられてしまうだろう。
なんともグロテスクな描写を想像してしまい、背筋が震えた。
こんなところに蹲っていてはダメだ。
そう思うのに、体が言うことを聞いてくれない。
___幸せになって。
幻の中で告げられた言葉を叶えるためには、自分の足でしっかり立ち上がらなければならないのに。
そうわかってはいるのだが、今の私には、幸せなんて曖昧なもののために頑張れる気力なんかなかった。
私の幸せは、このままここで息絶えて、最愛の両親の元へ向かうことなのではないか。
そんな不穏な考えさえ湧いてくる始末だ。
自分がどこへ向かって、何をすべきなのか、一寸先すら見えない絶望が心を蝕む。
小さなため息をついて、顔を上げた時だった。
「…っ、」
暗闇の中に、何かキラリと光るものを見た気がした。
獣の唸り声のような、低い音が耳に届く。
ザリザリと地面を擦って歩く足音は、だんだんとこちらに近づいて来る様だった。
「っ、や…来ないで」
先程抱いた死への覚悟なんて、一瞬で砕け散ってしまう程、私の心を支配するのは恐怖一色。
死にたくない。
死ぬ間際に思うことは、皆同じなのかもしれない。
「っ、ひ」
明けない視界の中、獣特有の荒い呼吸だけが辺りに響き渡る。
疲れた体に鞭を売ってなんとか立ち上がるも、足取りは重かった。
ふらふらと後ろ歩きで進む私を、獣の黒い影は見逃してくれないようで、一定の距離感で詰め寄ってくる。
「、いやっ、」
意を決して、くるりと背を向けて、走り出した。
後ろから、何かが高く飛びかかった気配を感じる。
「きゃぁっ!」
背中に重みを受けながら、覚束無い視界の中、私は斜面を転がり落ちるのだった。
獣に襲われて死ぬのか、山道を転落して死ぬのか、私の死因はいったいどっちなのだろう。
「わんっ」
背後で、そんな平和ぼけした鳴き声が聞こえた気がした。
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