37 / 63
悪い子 sideミレイユ
しおりを挟むSide ミレイユ
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫
逃げなければならない。
使用人の姿さえほとんど見かけないこの家で、伯父様と二人きり。
変わってしまった伯父様に、薄ら寒い恐怖を覚える。
「本当にお前は、レイナにそっくりだなぁ。可憐で愛らしいところも、その透き通るような声も…そして、私を拒絶する憎々しいところまで、瓜二つだよ」
「…お母様が、好きだったのですか?」
食事は必ず一緒に。
これは、伯父様がとても大切にしているルールだった。
以前は気にせず手をつけていた贅沢な食事も、今はとてもではないが、口にする気になれない。
「レイナは、私の中で永遠になったのだ。決して手の届かない遠いところに行ってしまったけれど、誰かのものであるよりずっといい」
「っ、なんてことを…」
まるで母の死を喜んでいるような物言いに目眩がしそうだった。
どうして、そんなにも穏やかな笑みを浮かべて、こんなにも残酷なことを口にできるのだろうか。
「だが、ミレイユ、お前は違う」
依然として笑顔のまま言葉を続ける目の前の男に眉を顰める。
「お前は、私のものだ」
「私は、伯父様のものではありませんっ…」
必死に頭を振って否定するが、伯父様は淡々として次の言葉を紡ぎ始める。
「今更、何を言っているんだ?」
少し不思議そうに、彼は首を傾げた。
「お前が、私に愛されたいと望んだんだろう?」
それは、ひどく残酷な
そして、紛れもない事実だった。
「私が…」
「お前が望んだものを、私はちゃんと与えてきただろう?」
確かに、私は望んだ。
家族が欲しいと…侯爵家の家族になりたいと。
初めはセイラ様への憎しみ故に、彼らの気を引いてきたが、いつしか本当に彼らと家族になりたいと願い始めた。
だけど、伯父様に女として愛されたいなんて願ったことは一度もない。
そんなこと、望んでない…!
「ミレイユ、今度はお前が私に返す番なんじゃないか?」
「え…?」
「私がお前を愛した分、お前も私を愛さなければ、不公平だろう」
さも当然のようにそんなことを言う伯父様に、なんだかもうよくわからなくなってしまう。
こんなにも愛されていたのだから、私も同じ気持ちを返さなければならなかったのだろうか。
こうなったのは、やっぱり私が悪かったの?
「自分ばかり良い思いをして、卑怯だとは思わないのか?」
「っ、それは」
「レイナもあの男も、可哀想だなぁ。こんなにも不義理な娘を持つなんて」
両親を引き合いに出されて、ズキリと胸が痛む。
「ミレイユ、お前が不徳な人間だから、お前の両親には罰が当たったんじゃないかい?そうでなければ、あんなに若くして亡くなるなんておかしいだろう?」
「…っ、母様達を襲ったのは、盗賊です!」
「どうしてその盗賊はわざわざレイナ達を襲ったんだろうなぁ?子の罪は親の罪だってよく言うじゃないか。二人は、ミレイユの罪を肩代わりしてくれたんだな。素敵な両親を持ってお前は幸せものじゃないか」
伯父様の言葉がじわじわと心を蝕んでいくようだった。
私が悪い子だったから、母様も父様も、あんなに残酷に命を奪われてしまったの?
セイラ様から、家族を奪ったから?
だけど、私が悪い子になったのは、両親が亡くなってからだったじゃないか。
…それとも、本当の私こそが、セイラ様を貶めた、真っ黒で醜い最低な人間だったのだろうか。
そうだったような気もするし、そうでないような気もする。
今となっては、もうわからなくなってしまった。
「そう不安そうな顔をしなくてもいいんだよ?」
伯父様は気分が悪くなるほど甘ったるい声でそんなことを口にする。
「ミレイユのことは私が責任持っていい子にしてあげよう」
「いい子に…?」
「ああ。いいかい?お前は私の言うことだけ聞いていればいいんだ」
伯父様は、食事の手を止めると、私を自身の私室に招き入れるのだった。
93
お気に入りに追加
8,451
あなたにおすすめの小説
【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?
ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢
その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた
はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、
王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。
そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。
※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼
※ 8/ 9 HOTランキング 1位 ありがとう御座います‼
※過去最高 154,000ポイント ありがとう御座います‼
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる