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幸せ sideミレイユ

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「はははっ、これは面白いことを言う」


さも愉快そうに笑い声を響かせる彼に、首を傾げる。

いったい何が面白いのだ。



「私はお前を娘だと思ったことなんて一度もないよ。そんなこと当たり前だろう」


「え…?」


「そもそも私は娘だろうと息子だろうと、一般的な親が子に抱くような愛情なんて、生まれてこの方一度だって感じたことはない」


堂々とそんなことを言う伯父様に言葉を失う。

それは、セイラ様やサイラス様に対してのことなのだろう。


以前サイラス様も同じことを言っていたけれど、それを本人の口から聞くとは思わなかった。


心のどこかで子に愛情を抱かない親なんていないと信じきっていたのだ。

だって実の両親がそうだったから。


亡くなったその日まで目いっぱいの愛を与えてくれたのだ。

だから、悲しかった。辛かった。


抱えきれない喪失感に耐えられなかった。


なんて言い訳を、ずっとずっと自分に言い聞かせてきたのだ。



「だけど、伯父様は私を…」


「ああ、愛しているよ。そうか、お前は勘違いしてしまったんだな。私がお前を実の娘のように思っていると」


勘違い?

この人は、何を言っているのだろうか…



「ふっ、そんなに顔を青くしてどうしたんだい?娘じゃないからなんだと言うんだ。娘なんかよりずっと深い愛を与えられてきたというのに」

「深い愛…?」


「ああ、実の子や妻だった女なんて目に入らないくらい、お前を愛しているよ。お前は私の唯一。…私の最愛の女だ」


伯父様の言葉に背筋がゾッとした。


最愛の女。


この人は、私を女として見ているの…?

父と子ほどの年の差、ましてや戸籍上私は彼の姪にあたる。


貴族の間での近親婚は珍しい話ではないけれど、それでも伯父様とはこれまで実の親子のように共に生活していたのだ。


同い年の実の娘であるセイラ様だっている。


狂っている。



「…有り得ない」

「有り得るんだよ。レイナの葬儀で大粒の涙を流すお前を見た時からずっと、お前を愛しているよ」


両親が亡くなった三年前から、この男は私をそういう目で見ていたというのか…



「じゃあ、私を引き取ったのは、私を手に入れたかったから…」


「こんなに上手くいくとは思わなかったよ」


目の前で下卑た笑みを浮かべる男に思考が追いつかない。

ぐらぐらと脳が揺れるような衝撃を受ける。



「ミレイユ、この家でずっと私と暮らそう。お前の愛した両親も、叔母も、サイラスだってもうお前の傍にはいない。お前を愛してやれるのは私だけだ」


「っ…」


「私と共に生きていくことが、お前の幸せなんだよ。わかったかい?」


「私の、幸せ…?」


体を動かしたわけでもないのに、息が苦しい。

目の前の男の声がじわじわと脳に染み込んでいくようだった。



私の幸せ、


幸せって、何?



まだ両親が生きていた頃、一緒に庭園を散歩することが大好きだった。

お買い物帰りに、母に買ってもらう甘いキャンディを舐めている時。

背の高かった父に抱き上げられた時。


そうした些細な日常が、何より幸せだった。



じゃあ、今のこの状況は?


娘と年の変わらない私を手篭めにしようとする伯父様と結ばれるのが私の幸せ?

自分の子どもにすら愛情を抱けない哀れなこの男の傍にいることで、私は本当に幸せになれると言うのだろうか。



そんなわけがない。



「違う、それは私の幸せなんかじゃない」



「ミレイユ?」


「それは、伯父様、あなたのエゴだわ」



ぐっと拳を握りしめて、私は口を開く。


「伯父様の言葉を借りて言うなら、私は貴方を異性として見たことなんて一度もない。伯父様の気持ちは、受け取れません」


伯父様の目をじっと見つめて言葉を紡ぐ私に、彼は信じられないと言ったように目を見開く。


「そうか、お前も…お前も私を受け入れないのだな」


そう静かに呟く彼は、どこか歪な笑みを浮かべていた。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫


更新お待たせして申し訳ございません。


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