33 / 63
奪ってきたもの sideミレイユ
しおりを挟むSide ミレイユ
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
飼い慣らされるというのは、多分こういう状況のことを言うのだと思う。
「ミレイユ、どうだいこのドレス。お前のために王都の名店から取り寄せた一級品だ!ドレスに合う宝石もある」
毎日のように高価なドレスや宝石、甘いお菓子をたっぷりと私に与えるお父様。
ここに移る以前も、たくさん私を甘やかしてくれていたが、これは度が過ぎている。
「お父様、ドレスも宝石も、もうクローゼットに入りきりません…」
「そうか、ならば私の部屋に置くといい!必要な時はいつでも取りに来ていいからな。いや、いっそのこと部屋の壁を取り払ってしまうか?お互いに行き来がしやすくなって便利だろう!」
そんな言葉に思わず絶句してしまう。
ただでさえ、お父様の部屋が隣にあることに疑問を覚えているというのに。
服をとりに行きやすいからといって、壁を取り除くなんてどう考えてもおかしいだろう。
実の親子でさえ、年頃の娘と同室で寝食を共にするなんて有り得ないはずだ。
彼は私をなんだと思っているのか。
「…お父様、私はもう子どもじゃありませんから」
苦笑を漏らしながらそう言う私に、お父様は満面の笑みを浮かべる。
「ああ、そうだ、お前はもう子どもじゃない」
「っ、はい…」
「お前は年々、レイナに似てくるな」
愛おしそうに目を細めて、目の前の彼はそう言葉をのこした。
…どうしてか、母様の名前を口にする彼にとてつもない嫌悪感を覚える。
先程の言葉に意味なんて無いはず。
きっと、ふと思ったことを口にしただけ。
そう願わずにはいられなかった。
それ以降も、彼は私にものを与え続けた。
贅沢品ばかりを並べられて、断っても断っても、新しいものを用意するのだ。
正直、気が滅入った。
それと同時に、そんな自分をなんだか不思議に思う。
今まで散々、お父様の、家族の愛情を欲して、思い通りに与えられたそれを余すことなく享受していた。
セイラ様のぶんまで。
いや、きっとそこにはサイラスお兄様へのものだって…
兄妹に向けられるべきであったものを、私が全部奪ってきたのだ。
…我がもの顔で生きてきた自分の愚かさを今になって気づいても何もかも遅いのだけど。
だけどそれも、もう終わりにしなければならない。
亡くなったお母様だって、お父様だって私の両親ではないのだから。
「これは、私のものじゃない」
クローゼットに並ぶ煌びやかなドレスを見つめて、ぽつりと呟いた。
お父様に…いや、伯父様に、はっきりと今の気持ちを伝えなければならない。
血の繋がらない私をこんなにも可愛がってくれた優しい人だ。
きっとちゃんと話せばわかってくれる。
そう密かに決意した翌日、伯父様は不愉快そうな表情を浮かべて、乱暴に私の部屋に押し入るのだった。
ノックもなく開いた扉から、苛立った様子の伯父様が顔を覗かせる。
「ははっ、ミレイユ、お前は可哀想な子だ!」
「っ、いきなり、どうしたのですか」
「お前はサイラスにまで見放されたようだぞ?」
伯父様は、気分が良いのか悪いのかよくわからない顔をしてクスクスと笑っていた。
いつもと違った様子に僅かに不安を覚える。
「サイラス、様…?」
「ん?もう可愛くお兄様とは呼ばないのか?まあそうだな…お前とサイラスはただの従兄妹だ。サイラスもお前を可愛がっている様だったのに、少し離れるだけですっかり気持ちも冷めてしまったようだしなぁ」
伯父様の言葉に眉を顰める。
今までお兄様と呼んで慕っていた彼がどうかしたのだろうか。
「サイラスはこちらへの援助を見直したいと言い出したよ。傷ついたミレイユを慰めるための…お前のための支出にケチをつけてきたんだ。無駄遣いのしすぎだなんだと、煩わしい。本当にお前のことが大切ならば、少しの贅沢くらい目を瞑って当然だろうに…」
嘆かわしいとばかりにため息をつく伯父様。
サイラス様の言い分は正しい。
ただでさえ、爵位を引き継いだばかりで大変な時期に、自分の知らないところで湯水の様にどんどん支出を増やす私達を看過できるわけがなかった。
それに、伯父様が私に使ったお金は少しの贅沢なんて金額ではないだろう。
「そんな顔をするな、ミレイユ。私からサイラスに話をつけよう。大丈夫、今までと何も変わりはしないさ」
伯父様は見当違いな言葉を私にかける。
「そうではなくて、あの、サイラス様の言っていることは正しいと思います、」
「ああ、あいつは正しいな。我ながら出来た息子をつくった。だけどな、ミレイユ…正しいからなんだ?じゃあ、私がお前を愛して、それを形にして与えることは間違っているのかい?人間としては、きっと私が正しいはずだ」
「その思いだけで私は十分ですから…伯父様が私を娘のように思ってくれていることはよくわかっています。だけど私はあなたの本当の娘でもなければ、この様に侯爵家の資産を都合よく受け取ることが出来る立場でもありません!」
息継ぎもせず言い切った言葉に、伯父様は大きく目を見開く。
次の瞬間、彼は予想だにしなかったことを口にするのだった。
56
お気に入りに追加
8,363
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。
婚約したのに好きな人ができたと告白された「君の妹で僕の子を妊娠してる」彼に衝撃の罰が下される。
window
恋愛
「好きな人がいるから別れてほしい」
婚約しているテリー王子から信じられないことを言われた公爵令嬢フローラ。
相手はフローラの妹アリスだった。何と妊娠までしてると打ち明ける。
その日から学園での生活が全て変わり始めた。テリーと婚約破棄した理由を知った生徒の誰もがフローラのことを同情してくるのです。
フローラは切なくてつらくて、いたたまれない気持ちになってくる。
そんな時、「前から好きだった」と幼馴染のレオナルドから告白されて王子と結婚するよりも幸せな人生を歩むのでした。
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。
水無月あん
恋愛
本編完結済み。
6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。
王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。
私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。
※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる