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奪ってきたもの sideミレイユ

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Side ミレイユ


■□▪▫■□▫▪■□▪▫


飼い慣らされるというのは、多分こういう状況のことを言うのだと思う。



「ミレイユ、どうだいこのドレス。お前のために王都の名店から取り寄せた一級品だ!ドレスに合う宝石もある」


毎日のように高価なドレスや宝石、甘いお菓子をたっぷりと私に与えるお父様。

ここに移る以前も、たくさん私を甘やかしてくれていたが、これは度が過ぎている。


「お父様、ドレスも宝石も、もうクローゼットに入りきりません…」

「そうか、ならば私の部屋に置くといい!必要な時はいつでも取りに来ていいからな。いや、いっそのこと部屋の壁を取り払ってしまうか?お互いに行き来がしやすくなって便利だろう!」


そんな言葉に思わず絶句してしまう。


ただでさえ、お父様の部屋が隣にあることに疑問を覚えているというのに。

服をとりに行きやすいからといって、壁を取り除くなんてどう考えてもおかしいだろう。



実の親子でさえ、年頃の娘と同室で寝食を共にするなんて有り得ないはずだ。


彼は私をなんだと思っているのか。



「…お父様、私はもう子どもじゃありませんから」

苦笑を漏らしながらそう言う私に、お父様は満面の笑みを浮かべる。



「ああ、そうだ、お前はもう子どもじゃない」

「っ、はい…」


「お前は年々、レイナに似てくるな」


愛おしそうに目を細めて、目の前の彼はそう言葉をのこした。


…どうしてか、母様の名前を口にする彼にとてつもない嫌悪感を覚える。

先程の言葉に意味なんて無いはず。

きっと、ふと思ったことを口にしただけ。


そう願わずにはいられなかった。



それ以降も、彼は私にものを与え続けた。

贅沢品ばかりを並べられて、断っても断っても、新しいものを用意するのだ。


正直、気が滅入った。


それと同時に、そんな自分をなんだか不思議に思う。



今まで散々、お父様の、家族の愛情を欲して、思い通りに与えられたそれを余すことなく享受していた。

セイラ様のぶんまで。

いや、きっとそこにはサイラスお兄様へのものだって…


兄妹に向けられるべきであったものを、私が全部奪ってきたのだ。


…我がもの顔で生きてきた自分の愚かさを今になって気づいても何もかも遅いのだけど。



だけどそれも、もう終わりにしなければならない。

亡くなったお母様だって、お父様だって私の両親ではないのだから。


「これは、私のものじゃない」


クローゼットに並ぶ煌びやかなドレスを見つめて、ぽつりと呟いた。



お父様に…いや、伯父様に、はっきりと今の気持ちを伝えなければならない。

血の繋がらない私をこんなにも可愛がってくれた優しい人だ。


きっとちゃんと話せばわかってくれる。



そう密かに決意した翌日、伯父様は不愉快そうな表情を浮かべて、乱暴に私の部屋に押し入るのだった。


ノックもなく開いた扉から、苛立った様子の伯父様が顔を覗かせる。



「ははっ、ミレイユ、お前は可哀想な子だ!」

「っ、いきなり、どうしたのですか」



「お前はサイラスにまで見放されたようだぞ?」


伯父様は、気分が良いのか悪いのかよくわからない顔をしてクスクスと笑っていた。

いつもと違った様子に僅かに不安を覚える。



「サイラス、様…?」

「ん?もう可愛くお兄様とは呼ばないのか?まあそうだな…お前とサイラスはただの従兄妹だ。サイラスもお前を可愛がっている様だったのに、少し離れるだけですっかり気持ちも冷めてしまったようだしなぁ」


伯父様の言葉に眉を顰める。

今までお兄様と呼んで慕っていた彼がどうかしたのだろうか。


「サイラスはこちらへの援助を見直したいと言い出したよ。傷ついたミレイユを慰めるための…お前のための支出にケチをつけてきたんだ。無駄遣いのしすぎだなんだと、煩わしい。本当にお前のことが大切ならば、少しの贅沢くらい目を瞑って当然だろうに…」


嘆かわしいとばかりにため息をつく伯父様。


サイラス様の言い分は正しい。

ただでさえ、爵位を引き継いだばかりで大変な時期に、自分の知らないところで湯水の様にどんどん支出を増やす私達を看過できるわけがなかった。


それに、伯父様が私に使ったお金は少しの贅沢なんて金額ではないだろう。



「そんな顔をするな、ミレイユ。私からサイラスに話をつけよう。大丈夫、今までと何も変わりはしないさ」


伯父様は見当違いな言葉を私にかける。


「そうではなくて、あの、サイラス様の言っていることは正しいと思います、」

「ああ、あいつは正しいな。我ながら出来た息子をつくった。だけどな、ミレイユ…正しいからなんだ?じゃあ、私がお前を愛して、それを形にして与えることは間違っているのかい?人間としては、きっと私が正しいはずだ」


「その思いだけで私は十分ですから…伯父様が私を娘のように思ってくれていることはよくわかっています。だけど私はあなたの本当の娘でもなければ、この様に侯爵家の資産を都合よく受け取ることが出来る立場でもありません!」


息継ぎもせず言い切った言葉に、伯父様は大きく目を見開く。

次の瞬間、彼は予想だにしなかったことを口にするのだった。


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