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どうする?

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父が、ミレイユの両親や義母を…?

予想もしなかった人物の名前が挙がり言葉を失う。


キース様がそっと私を抱く手に力を込める。



「…それは、本当なのですか?」


「ん~と、まあ、まだ確証はないんだけど、ほぼほぼ黒だと見ていいと思うよ。本当はフォージャー前侯爵の疑いを晴らすように調査を進めたかったんだけど、調べれば調べるほど疑念が深まっていっちゃって…ごめんね」


ウォルター様の言葉に愕然としてしまう。



「い、いえ…ウォルター様が謝ることでは」

「うん、でもごめん。俺も卒業してからは親父の部下として、この件にも関わらせてもらってるんだけどさ…多分侯爵はもう時期身柄を確保される」


やるせない表情を浮かべながらそう言うウォルター様に、正直私もどうしていいのかわからなかった。



「私達騎士団も、彼が口を割り次第実行犯のアジトに突入し敵を一掃する予定だ。前侯爵は実刑を受けることになるだろう。それに伴って、侯爵家も大きく影響を受けるはずだ」


なんとなく、彼らが今日ここへ赴いた理由がわかった気がする。


…きっと、私を救おうとしてくれているのだ。



「教えてくれてありがとうございます。きっとあまり褒められたことではなかったでしょうに」


時期にバーナード公爵家に籍を入れるにしても、私は依然として戸籍上はフォージャーの人間である。

義母の喪中ということもあり、結婚は延期にしていた。


私への密告がバレたら二人は罰を受けてしまうのではないだろうか。

勿論この事を誰かに喋るつもりはないが、私のために優しい二人がリスクを冒すのは忍びなかった。



「前侯爵が予想通り殺し屋、もしくは暗殺者集団と深い繋がりを得ていて、実際に三人もの人間を暗殺していたのなら、きっと彼自身は極刑、侯爵位もフォージャー家から取り上げられる。そうなったら、セイラ嬢はどうする?」


いつもの緩い口調ではなくなったウォルター様が真剣な眼差しで私に問う。

爵位を取り上げられる、そんなことが起こるなんて今日まで想像もしていなかった。


家名に傷がついた私がやるべき事…


答えは一つだった。



「…全てを失い、平民となって市井で生きていく他ありませんね」


「却下です」


ぽつりと呟いた私に、凛とした口調でキース様が口を開いた。



「そんなこと僕が許しません。セイラ嬢は僕と結婚すると約束してくれたじゃないですか」


「…そう、ですが」


私だってこのままキース様と結婚して、生涯を彼の隣で過ごしたかった。

だけど、それではダメなのだ。


私と結婚するこどでキース様の家までいわれの無い誹謗中傷を浴びたり、公爵家に傷をつけたりするなんて私のなけなしの矜持が許さなかった。


彼にだけは迷惑をかけたくない。


私を救ってくれた彼だけには。



「幸い、籍はまだです。今ならまだ間に合います」


「セイラ嬢はそれでいいのですか?」


いいわけがない。

いいわけがないけど、それでも



「…仕方の無いことです」


「僕はダメです。お願いですから、セイラ嬢のそばにいさせてください」


一歩も引かないキース様に、困ってしまう。

本当はすごく嬉しいのだけど、それを受け入れてしまえば苦労するのはキース様だ。



「二人とも、落ち着きなって~。そもそも俺たちがこうして二人に会いに来たのは、侯爵が捕まる前にどうにか対策を練って事態を収拾させるためだからさぁ」

「ああ、みんなで考えよう!」


「俺達だって全てを救えるわけじゃないから…せめてセイラ嬢には幸せになってもらいたいんだよね」


ウォルター様が誰を思ってそんなことを口にするのかは明白だった。

サイラス兄様だろう。


キース様にウォルター様、ヒューゴ様は兄様と親しくしてくれていたから。


侯爵家現当主である兄様。

直接家を継いだ彼は私以上に逃げ道を失ってしまうはすだ。



「とりあえず、まずは二人が幸せになる道を考えよ~?時間はそう残されていないんだからさ」


「そうだな」

「…きっと、何か方法はあるはず」

ウォルター様の言葉にこくりと頷く二人。



兄様やミレイユ、亡くなった義母、疑念のかかる父の顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。



目の前には私のために考えを巡らしてくれている三人。


このまま私だけ幸せになってもいいのだろうか。


自分の幸福がまるで何かズルいことをしている様に卑怯に感じてしまうなんて初めてだった。



こんな気持ち、キース様達にも失礼じゃないか。



「セイラ嬢?…大丈夫ですか?」


「っ、あ…えっと」


こんなことを口にしていいのかもわからずどもってしまう私に、彼は少し眉を下げて微笑む。


「本当にセイラ嬢は悩むのが得意ですね」

「そんなことは…」



「多くの時間を共に過ごしているおかげか、最近では貴女の考えていることも大分わかってきましたよ」


そんなことを言いながら少し横にずれたキース様が、私と向かい合うように視線を合わせる。



「セイラ嬢は優しい人だ。サイラスのことが心配なのでしょう?」


「…っ、あの人達がどうなっても、もう気にしないと決めていたんです」


だから、サイラス兄様のことだって、知らんぷりしてやりたいと今でも思う。

いくら謝罪されたって、そう簡単に兄への失望をぬぐい去ることなんてできなかった。



それなのに


「どうしてまだ、兄様のこと、」


助けてたいだなんて、思ってしまうのだろうか。



「僕はいいと思いますよ」

「え…?」

キース様のあっさりとした言葉に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「それがセイラ嬢なんでしょう?諦めきれないことは、無理に諦める必要なんてない。前侯爵の断罪で、サイラスが平民に落ちることは免れないでしょうが、それからでも救いの手は差し伸べられます。勿論、これまでと同じ暮らし同じ環境というわけにはいきませんが、最低限度の生活くらいは保証できます。…それに、僕達がおんぶに抱っこしてやる程あいつは無能ではありません」


彼の言い分に兄様への信頼を感じた。


希望が見えた気がした。




私は、切り捨てようとした家族の…兄様の幸せを、願ってしまってもいいのだろうか。



「セイラ嬢、サイラスのことも良いですが、そろそろ僕達の未来についても考えませんか?あんまり蔑ろにされると僕も悲しくなってしまいますよ?」


「っ、はい、そうですね」


わざとらしく悲しげな表情を浮かべるキース様に、私達は今一度四人で向き直り、話し合いを始めるのだった。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫


いつもお読みいただきありがとうございます!
コメント・お気に入り励みになっております。


三月中に完結させるつもりでしたが、厳しそうです。ごめんなさい!


私事ですが、明日から小学校の先生になります(;;)
どうにか時間を作って更新していこうとは思うのですが、今後も更新がゆっくりになってしまいそうです。

お付き合い頂けたら幸いです。


のんのこ。


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