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孤独 sideサイラス

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Side サイラス


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫


蓋を開ければ、結局私は一人だった。



「はあ」

小さく漏れたため息に、余計な思いを振り切るようにブンブンと頭を振る。


父から譲り受けた執務室で膨大な仕事に追われる日々、自身の孤独が輪をかけて重くのしかかるようになったのはいつからだろうか。


きっと、ミレイユと父が家を出た日から。


いや、あるいはセイラがキースの元へ去っていった時だっただろうか。



今となってはもうはっきりとはわからなかった。



淡々と業務をこなしていく中、ふとした時に自分が世界に一人きりなのではないかと、そんな不安が頭を過るのだ。

そんなことはないと当然理解はしている。



実の母がこの世を去り、セイラと手を取って生きてきた。

父が後妻を迎え、ミレイユが家族の一員となってからは、彼女を大切にすることでまるで運命共同体のように父や義母と団結することが出来た気がしていた。

歪つな絆を、家族のそれと勘違いしていたのだ。


セイラはすごいな。

そんなものに踊らされず、自分を見失っていなかったのだから。



そうして、残された大きな屋敷に、大きな責任。

侯爵家当主という肩書きはとても一人で背負いきれるものではない。


それでも、ここで私が放り投げると領民の生活に関わってくるのだからそう簡単に投げ出すこともできなかった。



結局私は執務を一つ一つこなしていくしかないのだ。

きっとそれの繰り返しで、人生なんてそんなものなのだろう。



「セイラもミレイユも、笑っているだろうか」


セイラは義母が亡くなったこともあり、結婚が少し延期になってしまったという。

落ち込んでないといいのだが。



ミレイユは義母の死のショックで療養が必要だと父が判断したらしい。

彼女を溺愛する父らしい判断だった。


本来なら前当主ならば跡を継いだばかりの息子をサポートするものではあるが、妹のためなら仕方ない。



セイラは勿論、甘やかすことしかしてあげられなかったミレイユにとっても私は良い兄ではなかった。


父や義母と一丸になってミレイユを真綿に包むように溺愛することだけが愛情ではなかったはずだ。

ましてやミレイユの言い分ばかり拾い上げて、セイラを苦しめることなんてあってはならなかったのだ。



不甲斐ない私は最後の最後までセイラを傷つけ続けた。


その結果、彼女は真に自分を愛してくれる人間を見つけ、飛び立って行った。



セイラへの謝罪の言葉だって、私の自己満に過ぎなかったのかもしれない。

彼女にとってはそれすらも負担になっていたのではないか。


反省も後悔も、今更すぎることだが、もう同じ轍は踏みたくなかった。



こんな不甲斐ない私が烏滸がましいと思われるだろうが、セイラもミレイユも私にとってかけがえのない大切な存在なのだ。


キースと幸せになったセイラの邪魔をしようとは思わない。

だが、彼女がもしも助けを必要としている時、支えられる力を持ち続けていたい。

次期公爵夫人であるセイラには要らぬ世話かもしれないが、そのためにも侯爵家は必要不可欠だ。



ミレイユにとっても、侯爵家は彼女の家だ。


元気になった彼女が安心して帰って来れるように、この家は守り通さねばならない。



ミレイユが帰ってきたら、今度は家族としてしっかりと向き合いたい。


本当の彼女を理解したいと、心からそう思うのだ。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫



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