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葬儀

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義母が賊に襲われ死亡した。


そんな知らせを受けたのは、私が侯爵家を出てすぐの頃だった。



「そんな、どうして」

「セイラ嬢…」


酷く動揺する私をキース様がそっと抱きしめる。

温かい温度を感じて少しほっとするが、それでもなお私の心は波立っていた。


それなのに、悲しい、なんて気持ちが湧いてこない私は薄情な人間なのかもしれない。



「…葬儀には参加するようにと、」

「大丈夫です、セイラ嬢。僕もずっとそばに居ます」


義母の死は突然で、 切り捨てたはずの家族が少しだけ気にかかる。

私は私の幸せを大切にしようと決めたばかりであるのに、サイラス兄様やミレイユを捨てきれない自分も確かに存在するのだ。


地に足がつかない曖昧な自分が嫌になる。



「本当に、私はまだまだ弱いですね」

「それはきっと、弱さじゃなく優しさでは?僕はそう思いますよ」


にこりと笑みを浮かべて、キース様はそんなことを言う。

…優しいのはどっちなの。



サイラス兄様もミレイユも、そして私も…実母の上に義母まで亡くすなんて宿命じみたものを感じてしまう。


■□



義母の葬儀は粛々と執り行われた。

その遺体は無惨なもので、本人と特定するのも困難なものだったらしい。


身につけていた物や、目や髪の色がなければ危うかっただろう。



「っ、お母様っ、どうしてお母様までいなくなっちゃうのよ…どうしてよっ!!」


ミレイユがこんなに取り乱している姿は初めて見たような気がする。

涙でぐちゃぐちゃの顔で金切り声をあげる彼女は、普段のふわふわとしたあの子とは似ても似つかない。


そうか、そうだった。

ミレイユの実の両親も同じなのだ。


賊に襲われ、命を落とした。


「こんな偶然…」


ミレイユの傍にはまるで表情を失ったサイラス兄様が立ち尽くしている。



「ああ、リイサ、私が傍についていなかったばかりに…!愛していたよ、リイサ…リイサぁっ」


墓前で悲痛な叫びを響かせる父だけが、どうしてか異質な存在に思えた。


…わざとらしく、思えてしまったのだ。


本当に彼は悲しみに暮れているのだろうか。



いや、妻を失ったのだから、きっとそうなのだろう。

疑う方がどうかしている。



「セイラ嬢?」

「…なんでもありません、大丈夫です」


心配げに私の顔を覗き込むキース様になんとか笑みを返し、私は兄様達の元へ歩き出した。



「サイラス兄様…」

「…セイラか」


疲れを帯びた声色で、兄様はどこか困った様に眉を下げた。



「…すまないな」

小さく謝罪の言葉を呟く兄様。


何に対しての謝罪なのか、理由はよくわからなかった。



「食事と睡眠は、しっかりとった方がいいと思います」

「…そうだな」

サイラス兄様の目の下にははっきりとわかる青いクマができていて、その頬はなんだかコケているように見える。


「サイラス、一人で抱え込むなよ」

「ああ、わかってる。抱え込むつもりはないさ。お前はセイラのことを頼む」


「言われなくても」


キース様と兄様がそんな言葉を交わすのを後目に、私はそっとミレイユに近づいた。



「ミレイユ」

「…セイラ、様」


彼女は真っ赤に泣き腫らした瞳でこちらを見つめる。

その姿はなんだか幼い子どもの様だった。


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