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蟠り
しおりを挟む春、キース様とサイラス兄様は学園を卒業した。
私とミレイユはもうすぐ二年生になる。
進級前の長期休暇、皆様々なことに追われ、バタバタと忙しく過ごしている。
兄様は本格的に父から爵位を譲り受けるらしくその準備に。
私はキース様と新居に移るべく、それに向けて毎日慌ただしい。
だけど、そんな毎日も苦ではなかった。
幸せな未来ために、忙しなく過ごす日々の中、私はこれまでに無いほど活き活きとしていたと思う。
キース様は自身だって私以上に多忙であるに違いないのに、無理やり時間をつくってはこちらまで会いに来てくれた。
「ようやく、明日から二人で生活できるんですね。少し照れくさいですが…楽しみです」
二人暮らしを目前とした今日、我が家にやってきたキース様と庭園でお茶をして僅かばかりのまったりとした時間を過ごす。
「ええ、私もです」
「僕のわがままでセイラ嬢まで慌ただしくさせてしまってすみません」
「そんな、嬉しかったんですよ?」
キース様から結婚しようと告げられた時に言っていた通り、彼は本当に王都に新しい屋敷を建ててしまった。
その家の家具や雑貨選びや家の管理のことなどを、彼は私にもたくさん相談してくれたのだ。
「私にも一緒に考えさせてくれて、二人の家をキース様とつくりあげているようで幸せな気持ちになりました」
「…それは、僕もです」
どうやらキース様も幸せを感じてくれていたみたいだ。
その事実にまた、なんだか恥ずかしいような、そわそわした気持ちになった。
「名残は惜しいですが、今日はそろそろお暇します。また明日、迎えに来ます。セイラ嬢も、最後の一日、心残りのないようお過ごしください」
「…そうですね。明日、お待ちしております」
キース様は優しい笑みを浮かべて我が家を後にするのだった。
「…心残りのないよう、ねえ」
そう言われて改めて考えてみても、特に惜しまれるものはないように思える。
半年程前の自分とは大違いだ。
依然として家族とは僅かな距離を置いて、何事もない穏やかな関係が続いていた。
あちらも三人で仲良くやっている様だ。
サイラス兄様の何か言いたげな視線はびしびしと感じるが、こちらから近寄っていくこともなかった。
ちゃんと話してみた方が、良いのだろうか。
だけど、それで何か変わるの?
一度全てを諦めたのに、せっかく閉じた蓋を開いて、また傷つくことになったら…?
正直、兄様と向き合うのは、怖い。
でも、ねえ。
このまま見ない振りを続けて、キース様と一緒になってからもずっと、私はこのモヤモヤとした心のわだかまりに気づかない振りをしていけるのだろうか。
キース様は、きっとこんな私の思いを見抜いていたからこそ、去り際にあんな言葉を残したのだろう。
結果から言えば、私は逃げた。
「今日はなんだか気分が良くないから、夕食は自室でとるわ」
そう使用人に告げて、さっさと部屋に引き上げてしまったのだ。
だけど、
「セイラ、気分は大丈夫か?」
夕食後、突然やってきた兄様によって、それは阻止されてしまうのだった。
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