19 / 63
攻略 sideミレイユ
しおりを挟む次の日から、私は徹底的にか弱く健気な令嬢を装うことを始めた。
両親を亡くしたばかりの私を侯爵家の人間は心の底から心配しているように見えた。
きっと彼らにとって私はこの上なく不憫な存在だったのだろう。
侯爵や伯母様に取り入ることなんて赤子の手をひねるようなものだった。
実妹やかつての幼馴染の娘だということも功を奏したのだろう。
「私は所詮フォージャー家の本当の家族にはなれない…」
なんて言葉を涙を滲ませながら呟けば、彼らは一様に目いっぱいの哀れみを向けてくれるのだ。
それこそ自身の子ども達を蔑ろにするほど。
愛情と同情の違いなんて、わからない。
そんなこと考えたって幸せになんてなれないじゃない。
サイラス様だけは少し手強かった。
妹を思う気持ちは人一倍強かったのだと思う。
彼は私の事を心配してくれているようだったけど、同時にセイラ様のことも忘れていなかった。
だから、サイラス様がセイラ様のことを気にかける度に、わざとらしく悲しみをちらつかせる。
サイラス様は人の涙に弱い面があった。
それはきっとセイラ様由来で、幼い頃から彼女を守ってきた賜物のようなものであったのだが、その恩恵を受けるにはセイラ様は強くなりすぎていた。
「あのっ、サイラスお兄様って、呼んでもいいですか?えっと、嫌だったら全然断ってくれても構いませんからっ」
不安な素振りを見せながらそんなことを口にすると、彼は穏やかな笑みを浮かべて頷いてくれた。
そして、精神的に弱い私に彼は付きっきりとなり、セイラ様を構う余裕なんてなくなっていったのだった。
時が経つにつれて、侯爵家の面々は私に対して本当の家族の様に接してくれるようになった。
そんな侯爵家はことのほか居心地が良く、思わず手離したくないと願ってしまうほどで、ミイラ取りがミイラになるというのはきっとこんなことを言うのだろう。
気がつくと当初の目的なんてすっかりどうでもよくなっていた。
セイラ様に私の痛みをわかってもらうことなんて最早どうでもよかったのだ。
だけど、今更そう思ったところで、私がやってきた行為は私が家族としての地位を築き上げる礎となり、結果的にセイラ様を貶めることをしっかりと成し遂げてしまっている。
家族の温かさに触れ、ようやく取り戻しかけた善良な心が、自身の起こした間違いに醜い悲鳴を上げていた。
だけど、私はそれに気づかない振りをしたのだ。
今はただ、恐怖のみが私の心を支配している。
再び、家族をなくしてしまうのではないか。
失うのは一瞬だ。
大切なものは自分の手で守っていかなければならない。
それこそ、どんなに汚い手を使ってでも。
だってこの世界は正直者が馬鹿をみる世界でしょう?
真面目で正義感の強かった両親は、いとも簡単に下衆の手によって命を奪われてしまったのだから。
日に日に元気をなくし、心を閉ざしていくセイラ様はかつての自分と重なる。
もういっそ家族の愛情なんて諦めて自由に生きてほしい、そんな身勝手なことを考えてしまう。
それを体現するかのように、彼女を傷つけるようにわざと侯爵家との仲を見せつけている自分がいた。
だから、あの時は、本当に嬉しくて…心底ほっとしたのだ。
「セイラ様、ご婚約おめでとうございます!」
「ええ、ありがとう」
バーナード公爵家から彼女に婚約の申し出が届き、セイラ様とキース様の婚約が成立した時、私は初めて心の底からセイラ様の幸せを願うことが出来た。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
ミレイユ視点一旦終了です。
179
お気に入りに追加
8,523
あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる