【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ

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攻略 sideミレイユ

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次の日から、私は徹底的にか弱く健気な令嬢を装うことを始めた。

両親を亡くしたばかりの私を侯爵家の人間は心の底から心配しているように見えた。


きっと彼らにとって私はこの上なく不憫な存在だったのだろう。



侯爵や伯母様に取り入ることなんて赤子の手をひねるようなものだった。

実妹やかつての幼馴染の娘だということも功を奏したのだろう。



「私は所詮フォージャー家の本当の家族にはなれない…」

なんて言葉を涙を滲ませながら呟けば、彼らは一様に目いっぱいの哀れみを向けてくれるのだ。

それこそ自身の子ども達を蔑ろにするほど。



愛情と同情の違いなんて、わからない。

そんなこと考えたって幸せになんてなれないじゃない。



サイラス様だけは少し手強かった。


妹を思う気持ちは人一倍強かったのだと思う。


彼は私の事を心配してくれているようだったけど、同時にセイラ様のことも忘れていなかった。

だから、サイラス様がセイラ様のことを気にかける度に、わざとらしく悲しみをちらつかせる。


サイラス様は人の涙に弱い面があった。


それはきっとセイラ様由来で、幼い頃から彼女を守ってきた賜物のようなものであったのだが、その恩恵を受けるにはセイラ様は強くなりすぎていた。



「あのっ、サイラスお兄様って、呼んでもいいですか?えっと、嫌だったら全然断ってくれても構いませんからっ」


不安な素振りを見せながらそんなことを口にすると、彼は穏やかな笑みを浮かべて頷いてくれた。



そして、精神的に弱い私に彼は付きっきりとなり、セイラ様を構う余裕なんてなくなっていったのだった。



時が経つにつれて、侯爵家の面々は私に対して本当の家族の様に接してくれるようになった。

そんな侯爵家はことのほか居心地が良く、思わず手離したくないと願ってしまうほどで、ミイラ取りがミイラになるというのはきっとこんなことを言うのだろう。



気がつくと当初の目的なんてすっかりどうでもよくなっていた。

セイラ様に私の痛みをわかってもらうことなんて最早どうでもよかったのだ。


だけど、今更そう思ったところで、私がやってきた行為は私が家族としての地位を築き上げる礎となり、結果的にセイラ様を貶めることをしっかりと成し遂げてしまっている。

家族の温かさに触れ、ようやく取り戻しかけた善良な心が、自身の起こした間違いに醜い悲鳴を上げていた。


だけど、私はそれに気づかない振りをしたのだ。




今はただ、恐怖のみが私の心を支配している。



再び、家族をなくしてしまうのではないか。

失うのは一瞬だ。


大切なものは自分の手で守っていかなければならない。

それこそ、どんなに汚い手を使ってでも。



だってこの世界は正直者が馬鹿をみる世界でしょう?

真面目で正義感の強かった両親は、いとも簡単に下衆の手によって命を奪われてしまったのだから。




日に日に元気をなくし、心を閉ざしていくセイラ様はかつての自分と重なる。

もういっそ家族の愛情なんて諦めて自由に生きてほしい、そんな身勝手なことを考えてしまう。


それを体現するかのように、彼女を傷つけるようにわざと侯爵家との仲を見せつけている自分がいた。




だから、あの時は、本当に嬉しくて…心底ほっとしたのだ。


「セイラ様、ご婚約おめでとうございます!」

「ええ、ありがとう」


バーナード公爵家から彼女に婚約の申し出が届き、セイラ様とキース様の婚約が成立した時、私は初めて心の底からセイラ様の幸せを願うことが出来た。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫


ミレイユ視点一旦終了です。


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