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おデート

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前回侯爵がキモかったのでお口直しに閑話でもどうぞ(;;)


次話からしっかり展開進めてドロドロにしていくつもりですのでしばしお待ちください。


ご意見・ご感想参考にさせて頂いております。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫




キース様との婚約がまとまり、私はこれまでにない程穏やかな日々を過ごしていた。

家族に見切りをつけ、新しい幸せを見つけたことで、精神的に余裕ができたことが大きいのだろう。



「セイラ嬢、こんにちは。学園の外で会うのは少し不思議な感覚ですね」

「こんにちは、キース様。ええ、そうですね。制服ではないキース様はなんだか新鮮です」


今日は、キース様に誘われて王都の繁華街までおでかけにやってきたのだった。

これが、俗に言うデートというものだろうか。



「……」

キース様がじっとこちらを見て黙り込んでしまう。

どうしてしまったのだろう。


「あの、何か…?」

「いえ、大したことではないのですが」


彼は僅かに頬を染めて口を開いた。



「今日のセイラ嬢が、その、いつも以上に綺麗で見惚れてしまいました。藍色のドレスがすごく似合っています。なんだか、僕の色に染まってくれたようで…嬉しいです」


そう言って、ぷいっとそっぽを向く彼。

どうやらすごくすごく照れているみたいだ。


確かに今日のドレスはキース様の瞳とそっくりな色をしている。

そう思って手にとったのだから当たり前なのだけど。



「……すみません、変なことを言ってしまいました」

「えっ、いや、あの…キース様の瞳がすごく綺麗だったので、私も藍色が好きになったのです」


「っ!?…それは、ありがとうございます」


二人で顔を真っ赤にする私達は周囲からみると少し滑稽であるかもしれない。

だけど、それも悪くなかった。



繁華街の入口で馬車を降りて、そこからは二人で歩いてまわる。


「セイラ嬢は、買い物はお好きですか?」

「いろんなものを見て回るのはわくわくします。もう随分昔にサイラス兄様と共に使用人に頼んで連れてきてもらった以来なので、すごく楽しみです」


五、六年ぶりくらいだろうか。

久しぶりのこの場所にキース様と来られることができてすごく嬉しい。



「では、その頃とはまた変わったところも多いでしょう。…僕がエスコート致します」

「よろしくお願いします、キース様」


差し出された腕をそっと掴んで、私達は市場に足を踏み入れるのだった。


活気の溢れるそこは、予想以上に楽しい。


綺麗なもの、不思議なもの、美味しそうなもの。

たくさんのものに、興味を引かれた。




「これ、すごく美味しいです!」


通りにはずらりと屋台という小さな商店が並び、まるで何かのお祭りのようだった。

以前来た時はこんなものなかったはずだ。



隅の方の屋台に売られていたよくわからないふわふわとした物体は、店主曰く甘いお菓子らしい。

一つもらって、小さくちぎったものを口に含むと、一瞬で溶けてしまったものの甘くてほんのり優しい味がした。



「良かったですね、セイラ嬢」

「こんなの初めてです!味もそうですが、ふんわりとしているのに口の中に入れるとすぐに溶けてなくなってしまうんですよ!」


子どものようにはしゃいでしまう私に、彼は優しく瞳を細める。



「へえ、不思議ですね」

「キース様も召し上がってみてください」


「…いただきます」


そう言ってキース様は、私の持つ甘くてふわふわなお菓子に自身の顔を近づけ、あろうことかそのまま大きく口を開けてパクリと頬張るのだった。



「っ…」


これではまるで私が手ずから食べさせているようなものだ。

…少し恥ずかしい。



じっとりとした瞳を向ける私に、彼は余裕そうな笑みを浮かべた。



「僕は両手が塞がってしまっているので」


「うっ」


そんなことを言われてはぐうのねも出ない。


原因は私にあるのだから。


キース様は、市場で私が気になったものを片っ端から買い与えようとするのだった。

勿論ほとんどは断ったけれど、彼が半ば強引に私にプレゼントしてくれたものでキース様の両手はいっぱいになってしまっている。


せめて自分で持ちたかったのだが、それすら彼は許してくれなかった。



嬉しいけど、満足に手も使えないキース様に申し訳なくなる。


しゅんとしてしまう私に、彼が言葉を続ける。



「それに、セイラ嬢に食べさせてもらうと、より一層甘くて美味しいですよ」


「…っ、食べさせたりなんかしていません」


なんてことを言うんだ。

キース様の殺し文句は心臓に悪い。



…ドキドキして、苦しくなるのだ。




「あんまり、虐めないでくださいませ…」

「僕だって必死なんですよ」


クスクス笑いながらそう言うキース様は余裕たっぷりでなんだかムッとしてしまう。



「やっぱり私にも半分持たせてください」

「か弱い女性に荷物を持たせるわけにはいきません」


「…ですが、両手が塞がっていては手も繋げません」



そんな私の言葉に、彼は数度目を瞬かせて、それからすぐにじんわりとその頬を赤く染めるのだった。


___繋いでだ手は、やけに熱を持っていた。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫




次話以降サブキャラ視点が増えると思います。御付き合いくださいませ。


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