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貴女でなければ
しおりを挟む「見苦しい姿をお見せしてしまって申し訳ございません」
キース様と並んで廊下を歩きながら、なんだか申し訳なくなってそんなことを口にする。
今思い出すと恥ずかしい。
自分から愛されていないなんていうミレイユに少し暴走してしまったようだ。
「…僕の方こそ、力になれなくてすみません。セイラ嬢も自分の思いをしっかり口にしていて、すごくかっこよかったですよ」
そんなキース様の言葉に救われた自分がいた。
まさかかっこいいなんて言われるとは思わなかった。
「ふふっ、ありがとうございます。キース様が私の味方をしてくれたからできたことですよ」
キース様が、私に自分の思いを伝えるきっかけを与えてくれた。
せっかくの昼食の席を壊してしまった気はするけど、スッキリしている自分もいる。
後悔はしていない。
「いったいどうしたらいいのか、セイラ嬢は最後にそうおっしゃっていましたよね」
キース様が神妙な面持ちで口を開いた。
「…ええ、なんだか子どものようなことを言ってしまいましたね」
気まずくなって少し視線を逸らしながら頷く私に、突然彼は歩みを止める。
そして立ち止まり、私をじっと見つめながら言葉を続ける。
「もう、僕と結婚したらいいのでは?」
「…え?」
なんだかすごく突飛なことを言われた気がする。
「僕と、家族になりませんか?」
以前も告白されてはいたが、より具体的な申し出に彼の本気を感じる。
真剣な瞳に目を逸らすことができなかった。
「セイラ嬢が不安にならない程、僕がセイラ嬢を愛します。貴女は先程誰にも必要とされていないとおっしゃいましたが、僕には貴女が必要です」
私が必要。
そう言ったキース様の言葉に、思わず涙が零れそうなほど心揺さぶられた。
嬉しかった。
直球すぎる彼の言葉は私を優しく包み込んでくれるようだった。
「…なんて、弱っている貴女に漬け込む僕は卑怯者ですね」
キース様は、自嘲したようにそう漏らす。
「卑怯だなんて思いませんよ」
「そうですか?」
「私はこんなにもキース様の言葉に救われたのですから」
そう言うと彼はホッとしたように柔らかい笑みを浮かべた。
そして、恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「あの、返事はゆっくりで構いませんので。無理強いはしませんが、僕を選んでくれたら嬉しいです」
「よろしくお願いします」
「…は?」
キース様の申し出をあっさりと承諾した私に、彼は心底驚いたというように目を丸くした。
その姿が少し可愛くて笑ってしまう。
「え、いいのですか?」
「私の方こそ、私なんかでよろしいのですか?」
「セイラ嬢でなければダメなのです」
食い気味にそう返すキース様は本当に喜んでくれているらしく、いつになく表情が弛んでいた。
「では、よろしくお願いします」
「大切にします。絶対に」
彼はそっと私の手をとり両手で包むように握りしめる。
キース様の温かい体温が伝わりなんだか安心した。
「本当はこんなところでプロポーズなんてするつもりはありませんでした」
「どこだってすごく嬉しいです」
「…やり直します、ちゃんと」
そんなこと気にしなくてもいいのに、キース様は納得がいっていないようだ。
「正式にフォージャー侯爵にも婚約を許可して頂く書面を送ります。できるだけ早く準備しますが少しだけ待っていてください。侯爵にも悪い話ではないはずなので、きっと受け入れて頂けるはずです」
「そうですね。家柄を見るようですが、キース様の公爵家に嫁ぐとなれば父も反対しないはずです」
それ以前にあの人は私にあまり興味が無い。
そんな私が公爵家に嫁ぐとなれば、嬉しい誤算のようなものだろう。
「でも、キース様のご家族の方はよろしかったのですか?」
「それは大丈夫です。両親には僕の気持ちは伝えていますから」
「そうなんですね」
もしかすると先日キース様が想いを告げてくれた時にはもうご家族のことを説得し終えていたのかもしれない。
「僕が学園を卒業するまで、あと半年…セイラ嬢が良ければ、籍を入れて一緒に暮らしませんか?近くに屋敷を用意します。…本当は今すぐにでも貴女を侯爵家から連れ去りたいのですが」
「…少し、照れてしまいますね。だけど、素敵ですね」
幸せな未来を想像して思わず笑みが零れた。
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