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疑念 sideサイラス

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Side サイラス

■□▪▫■□▫▪■□▪▫


放課後、友人のキースに呼び出された私は、ミレイユを馬車に待たせて彼の元へと向かった。

常日頃共に過ごしているというのに、改めて二人で話したいなど、一体どういった用件なのだろうか。

あまり良い予感はしなかった。


「キース、どうしたんだいきなり?」

彼は先に待ち合わせ場所に到着しており、じっとこちらを見据えている。


「セイラ嬢のことだ」

「セイラ?どうしてお前がセイラのことなんて…」

不思議に思ってそう問いかける私に、キースは冷静な口調で口を開く。


「セイラ嬢とは、随分前から親しくさせてもらってる。僕はセイラ嬢が好きだ。だから、セイラ嬢を無下に扱う君達家族が心底腹立たしいよ」

まるで全ての事情を把握していると言わんばかりのキースに流石に少しムッとする。

表情を歪める私をじっと見つめて、彼はもう一度口を開いた。


「セイラ嬢のこと、どうでもいんなら僕がもらってもいいよね?」

そんな言葉に思わず耳を疑う。


キースが、セイラをもらう?

それに、どうでもいいなんて。


「セイラは、私の大切な妹だぞ。どうでもいいわけがない」

「大切な妹、ね。はたから見たらとてもそんな風には思えないな。君が妹として守ろうとしているのはミレイユ嬢だけだろう?」


キースは今まで見たことが無いほど鋭い瞳でこちらをじっと見つめる。


「っ、そんなことはない!ミレイユもセイラも、私にとってはどちらも守るべき大切な妹だ。ただ、ミレイユは少し心身が弱い部分があって、兄である私が面倒をみてやらなければならなかっただけで…」


二年前両親を亡くしたミレイユは憔悴しきっていた。

無理もない。

幼い頃に母を亡くした私は、家族を失う苦しみがどれ程のものなのか痛いほど知っている。


彼女はいっぺんに最愛の両親を亡くしてしまったのだ。


両親の葬儀の最中、嗚咽を漏らしながら大粒の涙をこぼし続けたミレイユが、母を亡くしたばかりの幼いセイラと重なった。

父が彼女を屋敷に招いた時、不安気な瞳でこちらを見つめるミレイユを、守らなければない、そう強く思ったのだ。



「セイラ嬢にとっては、ミレイユ嬢に兄を奪われたようなものだろうね。その上ミレイユ嬢を苦しめているなんてあらぬ非難を受けて」

苦虫を噛み潰したような表情でキースはそんなことを口にする。

ミレイユのことでセイラがいわれの無い非難を受けていることは知っていた。

しかし、ミレイユのためを思ってのそんな言葉を強く咎めることはできなかった。


「私とセイラは母を亡くして以来共に助け合って生きてきた。あの子のことは誰よりも理解しているつもりだ!セイラにミレイユを傷つける意図がないことくらいわかっている」

ミレイユが苦しんでいるのは、我が家の実の娘であるセイラの存在そのものであって、セイラ自身は何も悪いことなんてしていない。


「いわれの無い非難をセイラが気に病む必要なんてない。それは彼女だってわかっているだろう。私が今兄としてなすべきことは、ミレイユの心の傷を癒すことだ。両親を亡くしたあの子には家族の愛が必要なんだ」

ミレイユの傷が癒えたなら、きっとセイラとだって本当の姉妹のような関係になれるはずだ。


「セイラ嬢は強いから二の次ってこと?」

「っ、嫌な言い方だな」

「そういうことでしょ?」


うまい言い方が見つからず返事に困る。

しかし、彼は所詮他人だ。

私達家族間の問題などキースに理解できるはずもないのだろう。


セイラにはきっと伝わっているはずだ。



「サイラス、君はもう少しセイラ嬢のことを思いやるべきだ」

「っ、どういう意味だ。そんなこと赤の他人に言われる筋合いはない!」


まるで私よりもセイラのことを理解しているといった物言いだった。

たかだかセイラが学園に入学してからの数ヶ月の付き合いであるキースにセイラの何がわかるというのだ。



「君がミレイユ嬢に向ける愛情の半分でもセイラ嬢に示すことができていたら、彼女が今あんなにも苦しむことはなかったはずだよ」

「セイラが苦しんでいる…?」


「君がどれだけセイラ嬢を信頼していようと、彼女はまだほんの十六の子どもだ。君の態度が変わらない様なら、本当に僕がセイラ嬢を奪い去ってしまうからね」


吐き捨てるようにそう言ったキースは、さっと踵を返してその場を後にするのだった。



「セイラは、強い子だ。そうだったはずだ…」


本当に、そうなのか?


私のの中にそんな小さな疑念が生まれた瞬間だった。


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