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父の言い分
しおりを挟むその日の夜、父に呼び出された私は書斎へと足を運んだ。
こうして父と顔を合わせて話をするのはいつぶりだろうか。
コンコン、と小さく扉をノックする。
すぐに返事が聞こえて私はそっと中へ入った。
「それで、ご用件は?」
「ああ、ミレイユのことだ」
その言葉になんだか嫌な予感がした。
もしかすると帰宅した際彼女が泣いていたことと何か関係があるのだろうか。
「ミレイユがどうかしたのですか?」
「今日彼女はお前との関係がうまくいっていないことであらぬ非難を受けたそうだ」
父はミレイユを心配してか、重苦しい口調で言葉を続けた。
「いい加減ミレイユを家族として受け入れてあげなさい。今まではお前の複雑な気持ちも考慮して大目に見てやっていたが、これ以上はミレイユが可哀想だ。あの子は両親を亡くして一人ぼっちなのだぞ!可哀想なあの子をこれ以上苦しめてやるな」
父の物言いに驚いて言葉が詰まる。
まるで私がミレイユを仲間はずれにして虐めているような言い分だった。
もう、わけがわからない。
「ミレイユは自分はいくら頑張っても本当の家族にはなれないと泣いていたそうだ。家族だっていて、お金にも不自由しない。そんな恵まれているお前が、どうして可哀想な少女一人にすら優しくできないんだ。ミレイユはともかく、心の貧しい人間に我が家の家紋を名乗る資格はないぞ」
無情な言葉が胸につきささる。
鼻先がつんとして瞳が涙で滲んだ。
「私はミレイユを苦しめたりなんかしていませんっ」
「それはミレイユが決めることだ。とにかく、ミレイユに優しくしてあげなさい。歳は同じでも生まれたのはお前が少し早いんだ。姉が妹を虐めてどうする」
少し困ったように眉を下げる父。
その態度は完全に私に呆れているようで、私の心に深い絶望を与えた。
「…ミレイユは、従姉妹ですよね」
「もう二年も姉妹同然の様に過ごしてまだそのようなことを言っているのか!私はお前もミレイユも分け隔てなく愛情を注いで育てて来たつもりだ。いい加減子どもの様に駄々をこねるのはやめなさい」
愛情?
確かにあなた方はこの二年、ミレイユをそれはもう大切に大切に養育してこられましたね。
初めは両親を亡くしたミレイユの心を慮って私だって彼女を尊重していた。
だけど、彼女がやって来たことで訪れた様々な変化は、今も尚私の胸をひどく締め付けている。
ミレイユがやって来て、父が本当は愛情深い人間だと知った。
義母があんなにも優しく笑う人なのだと知った。
兄は、こちらを見なくなった。
それがミレイユのせいなのかと問われたら、それはきっと違うのだろう。
彼女は両親を亡くし、この家に引き取られただけなのだから。
家族を魅了したのは、本来持っているミレイユの性質だ。
それを恨むのは筋違いであり、私があの子を苦しめるなんてあってはいけないとだと自覚もしている。
だから、何も言わず耐えた。
それなのに、今こうして父に責められている私はいったいこれ以上どうしたらいいというのだろうか。
「わかったなら、部屋に戻りなさい」
有無を言わせない雰囲気に、私は半ば呆然として自室に帰るのだった。
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