6 / 63
父の言い分
しおりを挟むその日の夜、父に呼び出された私は書斎へと足を運んだ。
こうして父と顔を合わせて話をするのはいつぶりだろうか。
コンコン、と小さく扉をノックする。
すぐに返事が聞こえて私はそっと中へ入った。
「それで、ご用件は?」
「ああ、ミレイユのことだ」
その言葉になんだか嫌な予感がした。
もしかすると帰宅した際彼女が泣いていたことと何か関係があるのだろうか。
「ミレイユがどうかしたのですか?」
「今日彼女はお前との関係がうまくいっていないことであらぬ非難を受けたそうだ」
父はミレイユを心配してか、重苦しい口調で言葉を続けた。
「いい加減ミレイユを家族として受け入れてあげなさい。今まではお前の複雑な気持ちも考慮して大目に見てやっていたが、これ以上はミレイユが可哀想だ。あの子は両親を亡くして一人ぼっちなのだぞ!可哀想なあの子をこれ以上苦しめてやるな」
父の物言いに驚いて言葉が詰まる。
まるで私がミレイユを仲間はずれにして虐めているような言い分だった。
もう、わけがわからない。
「ミレイユは自分はいくら頑張っても本当の家族にはなれないと泣いていたそうだ。家族だっていて、お金にも不自由しない。そんな恵まれているお前が、どうして可哀想な少女一人にすら優しくできないんだ。ミレイユはともかく、心の貧しい人間に我が家の家紋を名乗る資格はないぞ」
無情な言葉が胸につきささる。
鼻先がつんとして瞳が涙で滲んだ。
「私はミレイユを苦しめたりなんかしていませんっ」
「それはミレイユが決めることだ。とにかく、ミレイユに優しくしてあげなさい。歳は同じでも生まれたのはお前が少し早いんだ。姉が妹を虐めてどうする」
少し困ったように眉を下げる父。
その態度は完全に私に呆れているようで、私の心に深い絶望を与えた。
「…ミレイユは、従姉妹ですよね」
「もう二年も姉妹同然の様に過ごしてまだそのようなことを言っているのか!私はお前もミレイユも分け隔てなく愛情を注いで育てて来たつもりだ。いい加減子どもの様に駄々をこねるのはやめなさい」
愛情?
確かにあなた方はこの二年、ミレイユをそれはもう大切に大切に養育してこられましたね。
初めは両親を亡くしたミレイユの心を慮って私だって彼女を尊重していた。
だけど、彼女がやって来たことで訪れた様々な変化は、今も尚私の胸をひどく締め付けている。
ミレイユがやって来て、父が本当は愛情深い人間だと知った。
義母があんなにも優しく笑う人なのだと知った。
兄は、こちらを見なくなった。
それがミレイユのせいなのかと問われたら、それはきっと違うのだろう。
彼女は両親を亡くし、この家に引き取られただけなのだから。
家族を魅了したのは、本来持っているミレイユの性質だ。
それを恨むのは筋違いであり、私があの子を苦しめるなんてあってはいけないとだと自覚もしている。
だから、何も言わず耐えた。
それなのに、今こうして父に責められている私はいったいこれ以上どうしたらいいというのだろうか。
「わかったなら、部屋に戻りなさい」
有無を言わせない雰囲気に、私は半ば呆然として自室に帰るのだった。
200
お気に入りに追加
8,523
あなたにおすすめの小説

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる