【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ

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つんつん sideキース

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Side キース


■□▪▫■□▫▪■□▪▫


お昼休憩の時間、昼食はいつもサイラスを含めた数人の友人と共にとっている。


「サイラスお兄様っ、遅くなってごめんなさい!」


たまにやって来る彼女はサイラスの妹で、言い方は悪いがセイラ嬢を悩ませる諸悪の根源といったところだ。

サイラスが彼女を贔屓するのなら、僕だってセイラ嬢を少しは贔屓しても良いだろう。


「大丈夫だが、何かあったのか?」

「えっと、あの、お兄様と昼食をご一緒すると言ったらセイラ様に引き止められてしまって…」


そんなことを言うミレイユ嬢に思わず表情を歪める。

その物言いではまるでセイラ嬢がミレイユ嬢に嫉妬して彼女を強引に引き止めたようではないか。



「セイラ様とももっと仲良く出来たらいいのですけど…」

「全く、仕方ないなあいつは」


事実確認すらとらずミレイユ嬢の言葉だけを鵜呑みにするサイラスに頭を抱える。

約十六年もの月日をセイラ嬢の隣で過ごしてきたサイラスはどうして彼女を信じてあげようとしないのだろうか。


それ程ミレイユ嬢に骨抜きにされているのか。


たった三ヶ月程の付き合いである僕でさえ、セイラ嬢がそのような人間でないことを十分理解しているというのに。



少し、つついてみようか。



「仲良くしたいのなら、一緒にここに連れてきたら良かったのでは?どうしてセイラ嬢を誘わなかったのですか?」


「…えっ」

「ミレイユ嬢の話では、セイラ嬢もサイラスとお昼を過ごしたいように思えたのですが」


そう言うと彼女は戸惑ったように視線をさ迷わせる。

そんなことを指摘されるとは思いもしなかったのだろう。



「確かに、サイラスはミレイユ嬢しか連れてこないしな~。俺もセイラ嬢とは会ってみたかったかも」

友人のウォルトがそう口を開く。


「で、でもっ、セイラ様は私のこと嫌いだと思って…きっと私が家族でもないのにお兄様や両親と仲良くするのが嫌なんですっ。私はセイラ様のことも大好きなのにっ…」

涙目でそんなことを言うミレイユ嬢は、確かに傍から見ると庇護欲を誘うようだ。


「そうなのか!?ミレイユ嬢も大変なんだなぁ」

現にもう一人の友人ヒューゴは完全にミレイユ嬢に同情しているみたいだった。



「セイラ嬢がそう言ったのですか?ミレイユ嬢のことが、嫌いだと?」

「えっ、いや、でも態度とかでわかりますから!絶対私のこと嫌いなんですよっ」

「そう思い込んでいるだけでは?」


矢継ぎ早に言葉を返す僕に、ミレイユ嬢は余裕を無くしたように表情を歪める。


確信した。

この少女はわざとセイラ嬢を貶めている。


だとしたら僕が容赦をする必要はない。



「っ、勘違いなんかじゃありません!どうせ私は他人なんですっ、だからセイラ様が私を嫌うのも無理もない話なんですっ…うぅ、やっぱり私はサイラスお兄様達と本当の家族にはなれないんですねっ、うぁぁん」


筋の通らない言葉にこれ以上対話にはならないだろう。

本格的に嗚咽を漏らし始めたミレイユ嬢に苛立ちが募る。


こうやって甘え縋ることで、彼女はサイラス達に取り入ってきたのだろうか。


彼らがミレイユ嬢に味方するのなら、自分だけでもセイラ嬢の肩を持っていたいものだ。



「キース!ミレイユをあまり虐めるな!」

「虐めたつもりは無かったけど?」

ケロリとそう返す僕にサイラスは舌打ちを一つ零してミレイユ嬢を慰め始める。


ウォルトは意に返さず昼食を食べ進め、ヒューゴはおろおろと一人で焦り始め、収拾がつかない状態だ。


今朝方会ったばかりなのに、なんだかセイラ嬢が恋しい。

彼女と過ごす穏やかな時間が自分にとってどれほど大切であるのか改めて自覚する。



ミレイユ嬢のすすり泣く声は昼休憩が終わるまで途切れることはなかった。


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