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異変
しおりを挟むお昼休み、教務室に課題を提出しに行った帰り、廊下で見知った姿を見かけた。
「あっ、セイラ様!」
「ミレイユ…」
私を見かけると花が咲いた様な笑みで近づいてくる彼女。
ミレイユは両親や兄様に対しては家族のように接しているのに、どうしてか私に対してのみ少し距離を置いているように感じる。
私が彼女に抱いている醜い感情を見透かされているようで少し居心地が悪い。
「こんなところでどうしたんですか?」
「教務室に行った帰りよ。あなたは?」
そう尋ねると彼女は嬉々として口を開いた。
「ふふっ、今からサイラスお兄様と友人のみんなとランチをご一緒させて頂くんです!みんなとっても優しくしてくれるんですよっ」
「…そう」
嬉しそうな彼女とは裏腹に自身の心がズンと重くなっていくのを感じる。
兄様は度々友人とミレイユを引き合わせているとキース様もおっしゃっていた。
兄様にとってきっとミレイユは本当に大切で自慢の妹なのだと思う。
…私は、どうなのだろうか。
「サイラスお兄様は私をすごく甘やかしてくれるんですっ。あ、勿論お父様とお母様もですよ?本当の両親を亡くしてすっごくすっごく悲しかったけど、大切な家族に囲まれて今は私とっても幸せなんです」
「そう、良かったわね」
「あ、そろそろ私行きますね!サイラスお兄様やみんなを待たせちゃうっ」
そう言い残してミレイユは急ぎ足で私の前を去っていった。
…惨めだ。
従姉妹である彼女の幸せを喜べない私なんかを、兄様や両親が大事にしてくれるわけがないのかもしれない。
人気のない廊下。
なんだか一人ぼっちで取り残されてしまったような気分だった。
小さな溜息が宙に消える。
■□
放課後になり、相変わらず一人きりの馬車で自宅に帰る。
ミレイユや兄様はもう既に帰宅しているようだった。
「ううっ、ひっく、サイラスお兄様ぁ」
「ミレイユ、そう泣くな。大丈夫だから」
リビングに入ると、いつも笑顔いっぱいのミレイユが今日は大粒の涙を流して兄様に慰められていた。
どうしたと言うのだろうか。
「私なんてどうせこの家の本当の家族じゃないんですっ、うぅ、ふぇ」
「何言ってるんだ。ミレイユ、お前はもうこの家の歴とした家族だ!この家の者はみんなお前のことを大切に思っている」
「っ、本当ですかっ?でもっ、私、やっぱりお兄様の本当の妹じゃ…お兄様にはっ、セイラ様っていう本物の妹がいらっしゃるじゃありませんかぁっ…うぁぁん」
突如として飛び出してきた自分の名前にぎくりと反応してしまう。
ミレイユと私を比べるような言葉に嫌な汗が背筋をつたう。
兄様は、なんて返すのだろうか。
「セイラは実の妹だが、私にとってはミレイユ、お前ほど守ってあげたいと思う者はいない。お前は私の可愛い妹だよ」
ショックで言葉が出ないというのはまさしくこのことだと思った。
私が悩むまでもなく、兄様の中ではとっくに私なんかよりミレイユの方が大切な存在となっていたのだ。
ずっと、気づかない振りをしていた。
だけど、こうして名言されてしまうとショックは大きいがすんなりと受け入れられている自分がいる。
「本当ですかっ?えへへっ、うれしいです。サイラスお兄様は私を本当に大切に思ってくれているんですねっ」
「ああ、そうだ」
ミレイユの嬉しそうな声に思わず耳を塞ぎたくなる。
ああ、私は本当に性格が悪い。
気のせいか、遠目からみたミレイユの表情が、背筋がゾッとするような歪な笑みを浮かべているように見えたのだった。
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