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精霊との出会い 4

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「精霊? 愛し子? ずっと見えていた光は貴方達だったの?」

部屋の外に控える護衛兵に気付かれないよう、声を落としてセシリアは尋ねる。
聞きたいことがあり過ぎて、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしていた。

『そうだよ! あっ、でも光というか、私達はずっとこの姿のままだったけどね!』

『セシリアが見ようとしなかっただけ……』

「私が?」

今までずっと気付かないふりをしていたから、だから精霊の姿では見えなかったのだろうか。

セシリアが目を伏せてその言葉の意味を考えていると、視界の端でライア達が動いたのが見えた。
自分達より一歩前に出ていたフェニを押し退けて、ライアとディネが前に出る。
すると、フェニがすかさず二人の間に手を入れて割り込んできた。

「……」

前に出ようとするフェニを残りの二人が必死で引き留める。
邪魔するな、だとか、さっきまで側にいただろう、だとか言い争う声が聞こえてくる。

彼らの様子を見ていると、どうやら他の誰よりも前に――セシリアの近くに行きたいらしい。
目の前で始まった彼らのわちゃわちゃとしたやり取りに、セシリアは思わず後ずさる。
それに気付いた三人は声を張り上げた。

『何で引いてるんだ!』

『私はただ、誰よりも先にセシリアと仲良くなりたいだけなのに!』

『酷い……』

「ごめんなさい。つい」

一斉に非難されて、セシリアは困ったように笑う。

「貴方達は、私と仲良くなりたいと思ってくれているの?」

『もちろん!』

三人が弾んだ声で答える。
それぞれの髪色と同じ赤青緑のキラキラした目が、セシリアを期待の眼差しで見つめる。

あまりにも好意的な彼らに、セシリアは小さく首を傾げる。
今まで未知なるものから目を逸らし続けてきた自分に対して、精霊達は随分と友好的だ。
それが不思議でならなかった。

「私……今まで見て見ぬふりをするばかりで、貴方達から逃げていたのに」

そんな不誠実な自分と、どうして仲良くなりたいと思うのか分からない。
そう言うセシリアに、水の精霊ディネがフェニの腕を掴んだまま、ぽつりと呟いた。

『綺麗なの……』

ディネが前に出る。ディネが動くと、腰まである水色の柔らかな髪と、膨らみのある丈の長いスカートがふわっと揺れる。
無意識の内にセシリアは手を差し出していた。水をすくうように両手を前に出す。
その上にちょこんと正座したディネは、はにかむように笑った。

『セシリアの側は……心地良いの……』

手の平に感じる確かな存在。
重さはないけれど、ここにいるのだと分かる。ディネの存在を感じる。
精霊なんて空想の生き物だと思っていたセシリアは、触れて確かめたことで改めて彼らが幻ではないと理解した。

「ディネ……」

胸の奥からじんわりと温かな感情が込み上げてくる。
言葉は少ないけれど、セシリアを認め、その上で求めてくれるディネの想いが伝わってきて自然と笑みが零れた。

「ありがとう」

『普通』じゃないからと今まで向き合おうとしてこなかったセシリアに対しても、変わらず優しい感情を向けてくれる。
それがとても嬉しい。
セシリアとディネが顔を見合わせて微笑んでいると、ライア達が割り込んできた。

『あーっ! ディネばっかりズルい!!』

『抜け駆けだぞ!?』

ディネのもとに精霊達が集まって再びポジション争いを始める。
手の上でわいわい騒ぎ出したため、見かねたセシリアが声を掛けた。

「あのね! 私、バラゾアに向かいながら考えていたことがあるの」

お互いに体を掴み合っている状態で、三人の動きが止まる。

「離宮から遠く離れたこの場所でなら、長年の『夢』が叶うかもしれないって。――私、今までずっと閉鎖された場所で暮らしていて、親しい方はいなかったの。お付きの者達は皆とても良くしてくれたけれど、対等な立場とは違っていたから」

突然話し始めたセシリアをじっと見つめて、三人は黙って話を聞いていた。

「それでね、あの……そんな状況だったから、ずっと友達というものに憧れていて……は、恥ずかしいのだけれど、友達を作るのが私の夢だったの」

言いながらセシリアは顔を赤らめる。
十九歳にもなって友達が欲しいだなんて、おかしなことを言っているのは分かっている。
もしレベッカに知られたら、きっと馬鹿にされることだろう。

けれど、今まで友達と呼べる者が誰一人いなかったセシリアには、幼い頃から願い続けてきた夢だった。

「だから、もし貴方達と仲良くなれたら、とっても嬉しいわ。私の友達になってくれる?」

セシリアの言葉を聞いて顔を見合わせた三人は、すぐに笑顔で答えた。

『もちろん!』

「ありがとう……まさか、こんなに早く『夢』が叶うなんて思わなかったわ」

そう言うと、セシリアは頬を染めて微笑んだ。



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