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精霊との出会い 3

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自分はもう、何も見ていない。
そう思うことで、セシリアは不思議な現象から逃れようとした。

(それは……自分が普通じゃないと、自覚するのが怖いから)

そんなもの見えるはずがないとレベッカが騒いだ時、セシリアが感じたのは恐怖だった。
セシリアに流れる母方の血のことで、これまで様々な言葉をぶつけられてきたけれど、そんな非難とは違う類のものだった。

おかしい、異常だと罵られるのは怖い。
そんな風に言われると、自分というものを根底から揺るがされるような気持ちになる。
当たり前だと思っていたことが実はそうではないのかもしれない。そう気付いた時の、ひやりとする感覚。

普通ではないことの恐ろしさを知ったセシリアは、離宮という閉鎖された空間でも『普通』の感覚を得るために、教師を呼んで積極的に話を聞くようになった。
皆が知っている当たり前を知るために情報を得るようになった。
そして改めて、この光は誰の目にも見えていないことを知る。

――では、この輝きは一体何なのだろうか。

ランプを片手に、棚の側まで近付く。
辺りがオレンジ色の灯りに照らされる中、ソレは白に近い金色の光を放っている。
これは、一体何だろう。セシリアが目を凝らしてよく見てみると、一つだと思っていた光は全部で三つあることに気付いた。

『――やっと気付いてくれた!』

突然聞こえた、弾むような声。

「えっ?」

その声に呼応するかのように、突如として光は輝きを増した。
光の色が変わり、赤青緑の光が吹き出すように放たれる。
あまりの眩さに、セシリアは顔の前に手を出して目をつぶった。

「……ッ!」

目を閉じていても明るさを感じる程の強い光がようやく収まった頃、セシリアは恐る恐る瞼を開けた。
先程まで光があった場所を見る。
すると、いつの間にか光は消え、代わりに別の何かがいた。

「これは……一体……」

セシリアの目の前にいるのは、三人の小さな子供だった。
小人と言った方が近いだろうか。手のひらほどの大きさの男の子が一人と女の子が二人。
彼らは棚に置かれた獅子の置物に寄り掛かって、セシリアを見上げている。
セシリアが口を開くより早く、一人の少女が明るい声を出した。

『よーやく反応してくれたね! もう待ちくたびれちゃったよ!』

そう言って棚から飛び上がり、セシリアの顔の前まで来るとニコッと笑顔を見せる。
緑色の長い髪の毛を高い位置でポニーテールにしているその女の子は、髪と同じ緑色のワンピースを着ている。
見たところ羽もないのに重力を無視して空中に浮かんでいた。

『俺達がいるって絶対分かってたはずなのに、いつまでも気付かない振りしてたからな!』

『ずっと……待ってた』

緑色の子に同意するように、赤毛の男の子と青い髪の女の子が続く。
どこかセシリアを非難しているように聞こえるのは、きっと気のせいではないだろう。
顔の系統は違えども、三人とも整った顔立ちをしていた。

(――光から人の姿に変わるだけでも驚きなのに、まさか声まで聞こえてくるなんて……)

疑いようもない程鮮明な姿に、はっきりと聞こえる声。
それはセシリアの知る『普通』からは大きくかけ離れた光景だった。
覚悟を決めていても未知なるものと向き合うのは勇気がいる。
口元を手で覆いながらセシリアは小さく震えた。

「……私、夢を見ているのかしら」

思わず現実逃避してしまいそうになるセシリアを、赤毛の男の子が慌てて止めた。

『おいっ! 折角話せるようになったのに、夢で終わらせないでくれ!』

『夢じゃない……』

そう言って二人も飛び上がると、先にいた少女の横に並んでセシリアを見つめた。
彼ら一人一人の周りには粒子のように小さな光が煌めいている。
先程のような強烈な光は無くなってしまったけれど、三人とも内から輝きを発しているようだった。

『私達、貴方が認識してくれるのをずっと待ってたの! 私は木の精霊・ライア!』

『俺は火の精霊・フェニ』

『私は……水の精霊・ディネ』

フェニと言った赤毛の精霊は、一歩前に出ると胸に手を当ててニッと笑った。

『初めまして。セシリア。俺達の愛し子よ』

セシリアを見つめる三人の精霊達は、満ち足りた顔で嬉しそうに笑った。



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