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精霊との出会い 1
しおりを挟むバラゾアの宮殿に到着してから、あっという間に時が過ぎた。
就寝の準備を終え、侍女達が部屋を出たことでセシリアはようやく一人になれた。
ベッドサイドにあるランプを消したセシリアは、薄暗闇の中小さく息をつく。
ジルバートは命を狙っている者の目途はついていると言っていたが、それが誰なのかセシリアには教えてくれなかった。
パーティーでのお披露目まではセシリアを誰とも会わせるつもりはないようで、ジルバートからは妃教育に専念するよう言われている。
(まさか、皇帝を暗殺しようとする者がいるなんて……)
セシリアが今まで生きてきた世界では考えられないことだった。
アルデンヌ王国では、他者からの嘲笑や悪意を感じることはあっても、明確な殺意を向けられたことはない。
「私に何か出来ることはあるかしら」
灯りが消え、カーテンの隙間から月明かりがうっすらと差し込むだけの薄暗い空間で、セシリアはぽつりと呟く。
セシリアに武道の心得なんてものはない。
それに、今から鍛えたところで軍人だったジルバートを守れるほどの力を得られるとは思えない。
だからといって何もしないでいるのも嫌だった。
「もう少し情報があればいいのだけれど……」
口元に手を当てて考え込んでいたセシリアの前を、突然、キラッと光る何かが通り過ぎた。
「!」
顔を上げて光の方向に視線を向けると、それは壁際に配置された棚の上で動きを止めた。
様々な美術品が置かれた背の低い棚の上で、金色の小さな光がキラキラと光り輝いている。
セシリアは息を呑んだ。
――本来であれば、『アレ』は見えてはいけないもの。
見えるはずがないものを見てしまった恐怖心から、思わず目を逸らす。
いつも通り見なかったことにしようとしたセシリアを、どこからか引き留める声が聞こえた。
(――私はまだ、見て見ぬふりをするの?)
それは、自分の胸の内から聞こえてくる声だった。
今まで逃げてきた自分に問い掛けてくる。
それでいいのかと。
隣国では自分に正直に生きると決めたのに……誰も認めてくれないから仕方ないと自分に言い訳して、見えるものから逃げてしまって本当にいいのかと叫んでいる。
「……」
セシリアはのろのろと顔を上げて、恐る恐る光の方を見た。
優しい輝きは変わることなくそこにある。
覚悟を決めたセシリアは、ベッドから降りて再びランプに火を灯す。
ランプを手に、ゆっくりとそちらに近付いた。
『気持ち悪い!!』
幼い頃に聞いたレベッカの叫び声が脳裏に蘇る。
思い出すだけで胸が苦しくなる。
この光と向き合うということは、セシリアにとってはトラウマと向き合うことと同じだった。
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