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アルフォンスからの求婚 3

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無意識の内に距離を取ろうとするセシリアに、アルフォンスはくすりと笑う。

「そんなに警戒しないでください。何も、取って食うようなことはしませんよ」

「そんなつもりでは……」

意識していることを指摘されて思わず目を伏せる。

(……どうしよう……困ったわ)

人付き合いの薄いセシリアは、こんな時どうすればいいのか分からない。
顔には出さないよう努めているものの、セシリアは混乱していた。

(こちらから何か話しかけた方がいいのかしら? でも、アルフォンス様は用があるから声を掛けたのだろうし。それなら、とりあえず向こうの出方を待っていればいいの……?)

まさか同年代の異性と二人きりになるだけで狼狽えてしまうとは思わなかったセシリアは、自分の不甲斐なさに呆れた。
機会がなくて気付かなかったが、どうやら自分には圧倒的に経験が足りていないらしい。

平常心……平常心……

心の中で何度も念じる。
年が違うというだけで、孤児院の子供や家庭教師と何も変わらない。そう考えれば落ち着いて接することができるはずだ。

まさか自分が五十を過ぎた教師と同じ扱いをされているとは思いもしないアルフォンスは、セシリアが恥ずかしがっていると思ったのだろう。
目線を逸らしたセシリアを見て勘違いしたアルフォンスは一層笑みを深めた。

「私といるだけで照れてしまうなんて、随分と可愛らしいですね」

「――え?」

「貴方はこのゼラニウムの花のように愛らしい。セシリア殿下が社交界に出れば、きっと場が華やぐことでしょう」

その言葉を聞いて、下を向いていたセシリアの瞳がわずかに揺れる。
妹や弟の誕生パーティーにさえも出席したことがないセシリアには、社交界ほど縁遠いものはなかった。

「どうでしょう。そんな日が来れば良いのですが」

「まさか、自分の人生を悲観していらっしゃるのですか? もし貴方が私の手を取ってくださるのであれば、いくらでもエスコートいたしますよ」

「えっ!?」

アルフォンスの言葉に驚いて、セシリアは顔を上げて彼を凝視する。エメラルドグリーンの瞳をパチパチと瞬かせた。

――今日のアルフォンスは、なんだかおかしい。

今まで息をするように褒め言葉を口にしてきた彼だったけれど、ここまで直接的なものではなかった。
これではまるで、セシリアを落とそうとしているようだ。

「そうですよ。私は今、貴方を口説き落とそうとしているのです」

心を読んだようにアルフォンスが甘く囁く。
トーンを落とした男の低い声が、セシリアだけに聞こえるようにそっと告げた。

「殿下はもう十九になる。妹君のレベッカ殿下が結婚できる年齢になった今、いつ結婚されてもおかしくないでしょう? 他の男に取られる前に、私が貴方の夫に名乗りを挙げたい」

予期せぬ言葉に、セシリアは目を見開く。
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。

セシリアはどこに嫁がされるか分からないという不安から、貴族についての情報は出来る限り集めるようにしている。
周辺国についても同様に調べてはいたが、隣国バラゾアの皇太子には既に婚約者がいたし、皇太子以外の情報はほとんど入ってこなかったため気にしないようにしていた。
そういう経緯から、アルフォンスのこともある程度は調べている。
公爵家という確固たる地位にいて、女性慣れしている美貌の男が、自分に求婚するなんて信じられなかった。

自分の価値を知っているセシリアは、戸惑いながら口を開く。

「光栄なお話ですが、私は王女といっても、後ろ盾が……」

「そんなもの関係ありません。私は、貴方がいい。貴方と共に歩みたいのです」

視線を逸らそうとするセシリアの手を取って、アルフォンスは真っ直ぐに見つめる。

「母方の家のことなど気にしなくていい。貴方は幸せになっていいのです」

「幸せに?」

「ええ。そうです」

力強く頷いたアルフォンスは、真剣な面持ちで思いの丈を伝えた。

「どうか、私と結婚してほしい」

真っ直ぐな思いを告げられて、セシリアは息を呑む。
女性なら一度は憧れる、その言葉。それは離宮にいて恋愛沙汰に疎いセシリアでも例外ではない。
セシリアはアルフォンスの若草色の瞳を見つめ返した。




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