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5.貧乳は婚約破棄の要件に含まれますか?!

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私……決めました。

アスラン様に、打ち明けようと思います。


ひ、ひ、ひ、貧乳であると告げるのは死ぬほど恥ずかしいことですが、それ以上に結婚してからアスラン様を失望させてしまう方が辛いと思ったのです。

夫婦仲が冷え込んでしまって、もしアスラン様が他所で女性を作ったりしたら私は悲しくて苦しくて耐えられそうにありません。

この告白によって『リリアの胸ならどんなものでも構わない。』と安心できるのか、『こんなもの胸と言えるか!』と婚約そのものが危うくなってしまうのかわかりませんが、
でも私たちの将来のために必要な過程だと信じています。




侯爵家に先触れを出しアスラン様の許可を得た私は、侯爵家に参りました。

来賓室に通されアスラン様を待つ間もずっと気が気ではありません。
ノックの音に慌てて顔を上げると、いつもの精悍な顔のアスラン様がいらっしゃいました。

「リリア。突然どうしたんだ?」

「きゅっ、急に伺ってしまってすみません!」

立ち上がった私を制して、アスラン様がテーブルを挟んだ前のソファーに腰を下ろしました。

「いや、別に咎めているんじゃない。ただリリアから会いたいなんて珍しいと思ってな。」

「あ…の、実は私、アスラン様に話しておきたいことがあって…」

そう言いながらアスラン様を窺うと、煩わしそうな様子はなく少しホッとしました。

「もしかしたら…こんなことを言うと、アスラン様に失望されてしまうかもしれません。」

「失望?俺が、リリアに?」

驚いたように目を見開いて、次の瞬間ハハッと明るく笑いだしました。

「おかしなことを言う。どれだけ一緒にいると思ってるんだ?リリアのことなら大抵のことはわかるし、仮に俺の知らないリリアのことでも失望なんかするはずないだろ?」

アスラン様の軽い態度に、真剣な話をしようとしていた私は少しムッとしてしまいます。

「そんなこと、言い切れないじゃないですかっ」

「言い切れる。」

そう言うとアスラン様は不敵な笑みを浮かべました。

「リリアのことは俺が一番よく分かってる。」

男らしいその表情にキュッと胸が締め付けられて、誤魔化すように慌てて首を振りました。
顔が熱くて真っ赤になっていそうです。

「でっ、でもっ、私の秘密を知ったら、アスラン様は考えを改めてしまうんじゃないかと思って…」

「俺がどうするっていうんだ?」

「例えば、その…婚約破棄とか……」

起こってほしくないことなのに何故自分から言い出しているんだろう…?

そう思いつつも、やり取りの流れで自分が一番恐れていることを告げると、穏やかなアスラン様の顔が見る見るうちに変わっていきました。

「婚約破棄?」

地を這うような、低い声。

「俺が、リリアに婚約破棄を求めるような、そんな秘密を抱えていると?」

険しい眼差しで咎めるように見つめられて、そんな状況ではないのに私は先日の夢を思い出しました。

夢の中で、私ではない他の女性を愛おしそうに見つめるアスラン様の姿。
そして私に向ける蔑みの目。

威圧的な雰囲気が夢のアスラン様と重なって見えて、胸の痛みが強くなり、気付くと涙が溢れておりました。

「リリア?!」

私の涙にギョッとしたアスラン様は、慌てて立ち上がって私の座る席まで回るとしゃがみこみました。

「す、すまない怖がらせてしまって!ただ、リリアから婚約破棄なんて言葉が出てビックリしただけなんだ。」

「うっ…ううっ、アスランさま…!」

「いい子だから落ち着いてほしい。リリアに泣かれるとどうすればいいかわからなくなる。」

アスラン様の筋張った指が私の頬に触れ、次から次へと流れ落ちる涙を拭います。
涙で滲む視界の中、先ほど見せた高圧的な雰囲気から一転、困った顔をしたアスラン様がいらして私の気持ちは少し落ち着きました。

「アスラン様…」

「ん?」

「あの…私…アスラン様に聞きたいことがありまして…」

「ああ、なんでも聞いてくれて構わない。」

頭を撫でられながら優しい雰囲気のアスラン様に促されて、私は覚悟を決めて大きく息を吸い込みました。


「ひ、貧乳は婚約破棄の要件に含まれますか?!」





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