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76.クロードの今(2)

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「そろそろ出てきていただけませんか?」
「……もう顔なら出したわ」
「隠されていると暴きたくなるのですが」

 自分から出てきてくれるのを待ちたかったが、仕方ない。布団に手を伸ばすと、ジェシカが慌てて声を張り上げた。

「ま、待って! 分かった。分かったから、せめて電気を消して!」
「どうしてですか?」
「どうもこうも、信じられないくらい卑猥な格好をしているからよッ!」

 思わず吹き出しそうになった。
 そんなことを言われたらますます見たくなる。ベッドに腰かけると、布団を死守しようとしているジェシカの頬に触れた。
 手を首や肩に下ろすと警戒されそうだったため、頬に触れたまま指先で小ぶりな耳を弄る。

「んっ……」

 耳の形に沿ってゆっくりと指を這わせる。首側から耳裏をこすると、くすぐったそうにジェシカが身悶えた。すりすりと指を動かすたびに小さな甘い吐息が零れ落ちる。
 目がとろんと蕩けてきたところを見計らって、ジェシカの体を持ち上げた。

「わ、わっ!」

 布団から引っ張り出して、自分の膝の上にジェシカを乗せる。
 逃がさないよう、しっかりと腰に手を回した。

「……うん。綺麗ですよ」

 黒のランジェリーを身に纏ったジェシカが、居心地悪そうに腰を動かした。

 絹のように滑らかな白い肌に、真っ黒な下着がよく映えていた。
 丸い山を作った胸の膨らみに、谷間にかかった黒い紐が食い込んでいる。跡になってしまうだろうかと紐を引っ張ると、目の前の体がビクリと震えた。

 顔を覗き込むと、ジェシカは首まで真っ赤にしていた。

「~~ッ」

 キッとこちらを睨む瞳には、恥ずかしさのあまりうっすらと涙が滲んでいる。
 こんな顔をされると堪らない気持ちになる。もっと泣かせて、よがらせて快感に落としてやりたい。
 男の前で泣いてはいけないと、教えたのを忘れてしまったのだろうか。

 不意に、先日エスター侯爵家の嫡男とジェシカに記憶消去の魔法を行使したことを思い出して、胸の奥底で憎悪の炎が再燃するのを感じた。

 ――あの時は、本当に間に合ってよかった。

 あの日は、クランベル公爵の代理として商会に赴くジェシカに同行するため、御者とともに学校でジェシカを待っていた。商会の長がジェシカを嫌な目付きで見ていることを知っていたため、当初予定していた従者に代わってついていくことにしたのだ。
 ところが、いつまで経っても彼女は来ない。一体何をしているのかと思いながら、ジェシカの魔力を辿って迎えに行ったところ、あの事件に遭遇した。

 ――拘束され、魔法生物によって体を弄ばれていたジェシカと、それを不穏な目で見ていたあの男。

(俺が来るのがあと一歩遅かったら……)

 扉の前で聞いた、『既成事実』という言葉。ジェシカに触れる男の姿を想像して、腸が煮えくり返るほどに苛立った。

 無意識のうちに魔力が漏れ出ていたらしい。殺気にも似た俺の魔力を浴びて、体を震わせたジェシカが叫んだ。

「そっ、そんなに怒るほど似合ってないの⁉」

 まるで見当違いのことを言う彼女に毒気を抜かれる。

「何を言っているんですか」
「だ、だって。この格好を見た途端、クロードが怒りだすから!」
「とっても良く似合ってますよ」

 拗ねてしまったジェシカを宥めるように、顔にキスを落とす。目元や頬に口付けながら、耳元でそっと囁いた。

「貴方が用意した、あの勝負下着によく似ているでしょう? 着たかったのかと思って用意させたんです」
「えっ?」

 目を丸くしたジェシカが俺を見て、そして自分の体を見る。

「仕立屋のマダムから聞きましたよ。『どんな男でも落とせる最強の下着』なのですよね」
「!」

 かああぁっと目の前の頬が更に赤く染まる。

 「やっぱり似ていると思ってたのよ!」だとか「……ということは、クロード! 貴方このことを知っていて、わざと知らないふりをしていたのね!」だとか、色々と騒いでいるけれど、素知らぬ顔して柔らかな胸元に唇を落とした。


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