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19.授業で発情って何?(1)

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 この世界には魔法があるだけでなく、前世にはない特殊な動物や植物が存在する。
 魔法効果のある植物について学ぶ魔法植物の授業は特別教室に移動して行われるのだが、そこではいつもと違う席順になっており、何の因果か私とアメリの席は隣同士だった。
 そのせいか、魔法植物の授業のときは特に、破廉恥極まりない現象が起こりやすい気がする。

「貴方は何もしなくて良いわ」

 授業が始まる前に、アメリにはあらかじめ釘を刺しておく。

「いいこと? 貴方の魔法の素晴らしさは私が! 一番! よく分かっているから。こんなところで披露しなくてよろしくてよ」
「わ、分かりました」

 アメリがコクコクと頷いたのを確認して、私は前を向いた。
 皆の前に立って話をしている魔法植物の先生は、もじゃもじゃの青い髪に丸い眼鏡をかけた若い男の先生で、いつも白衣を羽織っている。

「今日は水に魔力を注いで、植物の成長液を作りましょう」

 先生は二人組になった生徒の間に、小さな芽が出た植木鉢と青いじょうろを置いていきながら説明を続ける。

「植物に直接魔力を注ぐ方法もありますが、そうすると魔力を入れすぎて植物が暴走する恐れがありますからね。植物の特性を頭に描きながら魔力を放出するといいでしょう」

 では、始めて下さい。そう言われて、私はじょうろを自分の前に置くと両手をかざす。
 魔法は手のひらから魔力を放出して構築していく。口頭魔術という特別な方法もあるものの、並外れたセンスと魔力量が必要で、ごく限られた者しか使用できないとされている。
 私の魔力が水に触れると、透明の水は金色に光り、とろとろと中に溶け込んでいくのが見えた。

「ふぇーー。ジェシカ様の魔力は気持ちいいですねぇ」

 そう言ってアメリが顔を蕩けさせる。

 ……なんでだろうか。褒められているはずなのに、辱められているような気がする。

「……不敬よ」
「えっ、す、すみません?」

 アメリが首を傾げると、ピンクブロンドの髪がふわふわ揺れる。それを横目に見ながら、じょうろを持って土に水を注ごうとしたときだった。

「あれ? なんで『ミドリちゃん』がここにいるの?」

 ぴょんと机の上に飛び乗った『ミドリちゃん』という名の触手が視界に入り、私は声にならない悲鳴をあげた。

「!」
「今日は連れて来てなかったはずなのに、おかしいなぁ。『ミドリちゃん』おいで」

 アメリは手のひらを上にして、乗るのを促すように『ミドリちゃん』に声を掛ける。けれどソレは主の言うことを聞こうとせず、嫌がるようにうにょうにょと体を横に動かした。

「……人の言うことを聞かないところが貴方にそっくりね」
「子は親に似るって言いますからねぇ」

 照れたように笑われても反応に困る。それにこの触手、まさかアメリが作ったってこと……? 完全に才能の使い方を間違っている。
 『ミドリちゃん』を見ると、じょうろに入っている成長液が気になるようで、小さくなっていた触手を伸ばそうとするところだった。

「それはダメ!」

 気付いたアメリが慌ててじょうろを持ち上げる。

「この成長液は『ミドリちゃん』のものじゃないんだよ」

 めっ! と子供に言い聞かせるようなアメリの態度に引いてしまった。作ったアメリには可愛く見えるのかもしれないけれど、傍から見れば得体のしれないグロテスクな物体でしかない。
 そんなアメリの注意を無視して『ミドリちゃん』はアメリの手首に巻き付く。余程成長液が魅力的なのか、『ミドリちゃん』は一歩も引く様子がなかった。

「あっ! ちょっと、だめだよっ!」

 青いじょうろを守ろうとするアメリと、じょうろの中身を狙う『ミドリちゃん』。そのやり取りになんだか嫌な予感がする。
 いつでもシールドを張れるよう、両手のひらを胸の前に出して準備していたところ、後ろから声がした。

「キミたち、大丈夫ですか?」
「えっ?」

 先生の存在に気を取られた私は、動きが一歩遅れてしまった。

「あ」
「「あ……」」

 『ミドリちゃん』から成長液を守ろうと腕を上にあげたアメリが、じょうろを傾ける。斜めにしすぎたじょうろの先から、私の頭めがけて水が飛び出してきた。


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