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2 -Deux-
リュカさんのカフェに来てしまった
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おじいちゃんに見送られ、早速パッサージュを出て取り敢えず開けた通りを歩いてみた。
お洒落な街並み、敷居が高そうな雰囲気のあるお店。カフェテラスで寛ぎ談笑する人たち。どこを見ても全てが絵になる。
この景色を堪能していると少し気分も晴れてきたので、試しに通りから少し外れた路に入ってみた。その通りに、周りの店とは少し違う、柔らかな色合いの外観をしたカフェがあった。間口は小さいけれど、大きく縁取られたガラスの窓から店内が見える。ここは、僕が入っても大丈夫そう。
落ち着けそうな雰囲気に誘われて店内に足を踏み入れてみる。すると、その奥のキッチンには、今朝の男の人が立っていた。
「ボンジュー……あ」
「あ、今朝の」
気まずい。けど店に入っちゃったし、ここで出て行くのは感じ悪いからどうしようと思って突っ立っていると、気付いたウエイターさんがそばまで来てしまった。
「こちらへどうぞ」
男の人の声を聞いたウエイターさんが、カウンターに僕を案内してメニューを置いていく。
「何にします?」
「……じゃあ、紅茶を一杯とサンドイッチをください」
「はい」
素敵な店内だ。白い壁には色んな場所で撮った風景の写真が飾られている。その中に一枚だけある人物写真。控えめに飾られているのに、妙な存在感を放っている。
「お待たせしました」
つい時間が経つのも忘れてじっくり店内を見回していたら、紅茶とサンドイッチがテーブルの上に差し出された。
「Merci beaucoup. ……いただきます」
フランス語でお礼を言って、手を合わせて日本語で言う。すると、穏やかだったその人は驚いた顔をして、突然カウンターから身を乗り出してきた。
「君、日本人?!」
「びっ……くりしたぁ……はい、そうですけど」
「お、俺! 日本語しゃべれる!」
何故か興奮気味に、流暢な日本語で彼は言った。
「まじですか?!」
「マジマジ! うわ、なんかうれしいな」
「僕もです。あー日本語ぉ、やっぱホッとするぅ~」
力が抜けてカウンターに額を落とすと、彼は優しい声で笑った。
「実は数日前にこっちに来たばっかりで、ちょっと気を張ってたんです」
「あ、だから今朝……見かけない顔だなって思ったんだ」
「あぁ、今朝……」
言われて思い出して、またちょっと気まずい気持ちになる。
「俺はリュカ。君は?」
「優理です。松下優理」
「ってことはハーフだ」
「そうです。父がフランス人で母が日本人。父は日本でフランス料理の店をやってます」
「そうなんだ。優理は、今いくつなの?」
「十八です」
「おお、若いね。あれ、じゃあ学校は?」
「……やめました。ちょっと、色々あって、行くの嫌になっちゃって」
僕の顔を見て、リュカさんは深く聞くことをやめてくれた。
「それで気分転換になるかなって、おじいちゃんがいるこっちに来てみたんです。家の下のパッサージュで、おじいちゃんが本屋さんやってて、そこを今は手伝ったりしてます」
「あ、もしかしてガスパールさんの?」
「はい」
「俺、そこの常連」
「え! あっそうだったんですか」
「うん、日本の漫画入れてくれてるでしょ、翻訳版。それでいつもね」
まさかおじいちゃんのお客さんだったなんて。しかも日本語が話せて、日本を好きみたいで、こうして気さくに話をしてくれるところを見ると、この人はきっと悪い人じゃないかもしれない。
お洒落な街並み、敷居が高そうな雰囲気のあるお店。カフェテラスで寛ぎ談笑する人たち。どこを見ても全てが絵になる。
この景色を堪能していると少し気分も晴れてきたので、試しに通りから少し外れた路に入ってみた。その通りに、周りの店とは少し違う、柔らかな色合いの外観をしたカフェがあった。間口は小さいけれど、大きく縁取られたガラスの窓から店内が見える。ここは、僕が入っても大丈夫そう。
落ち着けそうな雰囲気に誘われて店内に足を踏み入れてみる。すると、その奥のキッチンには、今朝の男の人が立っていた。
「ボンジュー……あ」
「あ、今朝の」
気まずい。けど店に入っちゃったし、ここで出て行くのは感じ悪いからどうしようと思って突っ立っていると、気付いたウエイターさんがそばまで来てしまった。
「こちらへどうぞ」
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「何にします?」
「……じゃあ、紅茶を一杯とサンドイッチをください」
「はい」
素敵な店内だ。白い壁には色んな場所で撮った風景の写真が飾られている。その中に一枚だけある人物写真。控えめに飾られているのに、妙な存在感を放っている。
「お待たせしました」
つい時間が経つのも忘れてじっくり店内を見回していたら、紅茶とサンドイッチがテーブルの上に差し出された。
「Merci beaucoup. ……いただきます」
フランス語でお礼を言って、手を合わせて日本語で言う。すると、穏やかだったその人は驚いた顔をして、突然カウンターから身を乗り出してきた。
「君、日本人?!」
「びっ……くりしたぁ……はい、そうですけど」
「お、俺! 日本語しゃべれる!」
何故か興奮気味に、流暢な日本語で彼は言った。
「まじですか?!」
「マジマジ! うわ、なんかうれしいな」
「僕もです。あー日本語ぉ、やっぱホッとするぅ~」
力が抜けてカウンターに額を落とすと、彼は優しい声で笑った。
「実は数日前にこっちに来たばっかりで、ちょっと気を張ってたんです」
「あ、だから今朝……見かけない顔だなって思ったんだ」
「あぁ、今朝……」
言われて思い出して、またちょっと気まずい気持ちになる。
「俺はリュカ。君は?」
「優理です。松下優理」
「ってことはハーフだ」
「そうです。父がフランス人で母が日本人。父は日本でフランス料理の店をやってます」
「そうなんだ。優理は、今いくつなの?」
「十八です」
「おお、若いね。あれ、じゃあ学校は?」
「……やめました。ちょっと、色々あって、行くの嫌になっちゃって」
僕の顔を見て、リュカさんは深く聞くことをやめてくれた。
「それで気分転換になるかなって、おじいちゃんがいるこっちに来てみたんです。家の下のパッサージュで、おじいちゃんが本屋さんやってて、そこを今は手伝ったりしてます」
「あ、もしかしてガスパールさんの?」
「はい」
「俺、そこの常連」
「え! あっそうだったんですか」
「うん、日本の漫画入れてくれてるでしょ、翻訳版。それでいつもね」
まさかおじいちゃんのお客さんだったなんて。しかも日本語が話せて、日本を好きみたいで、こうして気さくに話をしてくれるところを見ると、この人はきっと悪い人じゃないかもしれない。
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