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8 -Huit-

一家団欒の朝食

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「あっすみません、俺の名前はテオって言います。優理さんとお付き合いをさせていただいてまして」
「うんうん。おじいちゃんの言っていた通り、ハンサムで素敵な人ね。優理との暮らしはどうです?」
「え!」

 おじいちゃん、そこまで言っちゃってるじゃん!
 って小声で言ったら、おじいちゃんは舌をペロッと出しながらまた、テッテレーみたいなポーズでおどけてみせた。

「凛々子、ひとまずそこまでにして、まずは朝食にしよう」

 この騒がしさに終止符を打ったのは、お父さんの一言だった。

「そうね。話なんかいくらでも聞けるんだし。まずはご飯! 日本から調味料持って来たから、こっちにいる間は私とオリヴィエで作るわね」
「そして明日はお節だよ。楽しみにしてて」

 言いながらお父さんとお母さんは、お揃いのエプロンを身に着けた。
 僕たち三人は、取り敢えずリビングのソファに座って待つ。

「すごく明るいご両親だね」
「そうなんだよ。あ、それにね、お父さんのお節はフレンチ風と日本の二種類あって、毎年すごく楽しみにしてたんだ。だから、テオにも食べてもらえるの、すごく嬉しい」

 僕はテオの手を取り、指を絡めてキュッとつなぐ。そして目を見て微笑んだら、テオは僕のおでこに自分のおでこをコツンと合わせて同じように微笑んでくれた。

「俺も、ユウリの家の料理食べられるの嬉しい。すごく楽しみ」

 ふとキッチンに目を向けると、お父さんとお母さんが楽しそうに笑顔で料理をする姿が目に映る。
 僕も二人みたいに、テオとずっと笑い合って生きていきたい。
 そうやって未来を想像するだけで、幸せな気持ちでいっぱいになった。

「はいできましたー」

 リビングでテレビを見ながらくつろいでいると、キッチンから母の声が聞こえてきた。
 テーブルに並べられていく朝食。僕が作るよりもやっぱりお父さんが作るほうがかなり美味しそうだ。

「じゃあ優理、テオくん、話は食べ終わったらじっくり聞かせてね。ってことでオリヴィエさん、どうぞ」
「はい、イタダキマス」

 お父さんの号令を聞いて、みんなで手を合わせ「いただきます!」と挨拶をする。
 二人の連携の取れたこの見事なやりとりも、懐かしい。つい口元が綻んでしまったら、向かいに座ったお母さんがニヤニヤしてた。

「よかった。優理に笑顔が戻って」
「お母さんが、提案してくれたおかげだよ。二人がこっちに来させてくれたおかげ。ありがとう」
「俺もユウリに出会わせてくれて、感謝してます。この子は俺が護るので、安心してください」

 隣でテオが、姿勢をピシッと正して言う。こういうところ、本当に誠実でかっこいいと思う。もう僕は、何度惚れ直したかわからない。

「あらなんか、プロポーズみたい」
「そう、思ってもらって構いません」

 その言葉を聞いて僕とお母さんは、同時に「ひゃあ~」と言いながら顔を覆う。お父さんは徐に席を立ち、シャンパンとグラスを持って戻って来た。

「テオくん飲もうか」
「はい! あっ、イタダキマス」

 覚えた日本語で丁寧にグラスを受け取るテオ。そのグラスにお酒を注がれ二人で飲む姿に、将来が見えた気がした。


 朝食を済ませてから、暫く一家団らんの時を過ごした。
 テオとの出会いから一緒に暮らすまでを事細かに聞かれ、少し疲弊してテオの家に帰ってきたのは夕方近く。

「ごめんね、テオ。うちの家族、しゃべりだしたら止まらなくて」
「いや、楽しかったよ」

 玄関に入ってリビングに直行し、二人でドカッと深く座り込む。
 そして僕が唇を突き出してキスをねだったら、テオはその唇めがけてチュッとキスしてくれた。

「んん、もっと」
「もっと? しょうがない子だなぁ」

 今度は僕の体を抱き寄せて、チュッチュッとたくさん啄んでくれる。顔中に唇を触れさせて、最後は口。数え切れないほどのキス。気持ちよくて、蕩けそう。

「凱旋門のカウントダウン、行く?」
「うん、行く」
「じゃあ場所確保するために、もう少ししたら出ようか」
「……ん」
「それまでちょっと……触り合ったりす」
「するっ」
「っはは! 返事はやい!」
「だって好きだから、ちょっとでも触りたい」
「うん、俺も。ユウリに触りたい」

 見つめ合って、おでこを重ね、鼻先を触れ合わせる。
 ちょっとだけねと約束をしたのに僕たちは、結局ちょっとだけでは済まなかった。
 ギリギリの滑り込みカウントダウン。
 でもいいか。きっと僕たちはこの先も、毎年一緒に来るんだから。




 【fin.】
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