上 下
38 / 44
7 -Sept-

愛しいあなたへ

しおりを挟む

「はあ~。もう優理、いい子すぎる! よくアレを許せたね、すごいよ。えらい」

 緊張の糸が切れたリュカさんに、思い切り抱き締められた。頭を撫で回され、頬に何度もキスを施される。この状況、日本語が分からなくてもいつもならすぐに引き剥がそうとするテオだけど、何故か黙ったまま割り入ってこない。

「まあ完全に許しきれたわけじゃないけど、でも先生だって、被害者だから……」
「天使かな、優理は。いや菩薩様の化身かもしれない」
「大袈裟だよ」

 リュカさんがあまりにも真顔で変なことを言うから困って苦笑したら、「もう一度キスさせて」と言っておでこにチュッとキスをされた。

「はぁ、ホッとしたら喉乾いちゃった。ここで待っててね、ホットチョコレート買ってきてあげる。Et Théo? Que veux-tu boire?(テオは? 何が飲みたい?)」
「ヴァン・ショー」
「D’accord.(了解)俺はホットシードルにしようかな。じゃあ行ってきます」

 そう言ってリュカさんも、ここを離れていった。
 テオと二人きりになると急に、繋いでいた手の熱さに気付く。

「テオ、ありがとう。僕の手をずっと握っててくれて」
「俺はまだ、アイツを許せない」

 イライラした様子で眉間にシワを寄せているテオ。僕のことで、こんなにも怒ってくれている。彼が僕を本気で想ってくれているというのが伝わってきて、ジワジワと胸が熱くなり愛しさが込み上げてくる。
 僕は堪らない気持ちになって、思わずテオに抱き着いた。

「……好き。テオが好き。大好き」
「ユウリ……?」
「こんなにも前向きな気持ちでいられるのは、テオのおかげだよ。テオが僕に、愛をいっぱいくれるからだよ。ありがとうテオ。大好き」

 込み上げてきた思いを、素直に口にした。この想いが、真っ直ぐ彼に届くようにと。
 抱き着いたまま彼の背中に回した腕に少し力を込めると、テオは静かに僕を抱き締め返して、耳元で熱い息を吐いた。

「帰ったら、たくさんキスしていい?」

 さっきのトゲトゲしたのとは違う、優しく響く低い声。僕の耳がその声に覆われて、心臓が大きな音で鳴り始める。まるで何かを期待するみたいに、僕の体温が上がる感覚。

「……うん。して? いっぱい」

 どうやらその期待が声に出ちゃったみたい。「ユウリ、今その声出すのは……」と言ったテオの耳は真っ赤に染まっている。

「やらしいなぁ、テオは」

 ちょっとイタズラ心が疼いて今度はわざと、僕なりの色っぽい声をテオの耳に囁き入れてみたら、テオは僕の体を離して、キュッと鼻を摘まんできた。

「こら、煽るな」
「んぅ」
「帰ったらちゃんと、ベッドで愛してあげるから」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

「恋の熱」-義理の弟×兄- 

悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。 兄:楓 弟:響也 お互い目が離せなくなる。 再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。 両親不在のある夏の日。 響也が楓に、ある提案をする。 弟&年下攻めです(^^。 楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。 セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。 ジリジリした熱い感じで✨ 楽しんでいただけますように。 (表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...