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7 -Sept-

息ができない

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 僕の頭は気が狂いそうなくらいグルグルして、眩暈までしてくる。息が、苦しい。呼吸が上手くできない。

「ユウリ? おいどうした」

 テオの声が、遠く曇って聞こえる。

「……先生、どうしてここに」
「優理、大丈夫? もしかしてこの人」
「――……っ」
「まさかここで会えるなんて……ずっと、ずっと謝りたかった」
「やめてください!」
「松下くん、お願いだ聞いてくれ」
「やっやだ、触らないで!」

 先生が後ずさる僕の腕を掴んで、必死に訴えてくる。痛い、怖い、体が震える。

「おいアンタ何やってんだ放せよ!」
「テオ! 優理この人のこと先生って言ってる!」
「は? ってことはお前かユウリを傷付けたのは!」

 テオ、ダメだよ。この人フランス語通じない。
 その証拠に、テオが声を荒らげても、先生は聞く耳を持たず僕の腕を強く握ったままだ。

「松下くん、とにかく話を!」

 僕はとにかく逃げたくて、先生の手を何とか振りほどいて走り出した。

「ユウリ! くそっ、リュカそいつ捕まえといて!」

 真っ直ぐ、とにかく真っ直ぐ。僕は人波を上手く避けながら走った。息は苦しいし涙は出てくるし足もフラついてる。でもとにかくあの場から、先生から逃げたかった。

「ユウリ!」

 後ろから、テオの声が聞こえる。僕を追い掛けてきてくれたのか、何度も聞こえる僕を呼ぶ声に、なんだか心がホッとして涙が出てくる。人気の少なくなった開けた場所で漸く振り返って見ると、僕と同じように人波を避けながら走ってくるテオの姿を見つけた。

「テオっ……テオ!」

 僕は堪らず彼の名前を呼んでいた。早く、抱き締めてほしくて。震える足をなんとか動かしてテオに向かって歩いていくと、僕のもとに辿り着いた彼は思い切りよく僕の体を抱き締めてくれた。

「ユウリ、大丈夫か?」
「っ、大丈夫じゃない……ぼく、僕っ」
「まず落ち着こう。俺がいるから、ゆっくり呼吸して」
「んっ……」

 彼の左手が僕の頭を包み、右手で背中を擦ってくれる。ゆっくり、優しく、何度も、何度も。僕はその間に深呼吸を繰り返した。彼の胸に顔を埋めて、彼の匂いを吸い込んで体に取り込むだけで、心が落ち着いてくる。テオの体温、安心する。

「落ち着いてきた?」
「ん……」

 テオの柔らかくて低い声が、耳から体に浸透していくみたいで、心地いい。

「話できそう?」
「うん、もうへいき……」

 テオのダウンジャケットを抱きついたままの手で握る。そんな僕の反応に、背中を撫でる彼の手が少し強くなった。

「さっきの日本人……ユウリが向こうで裏切られたって、言ってたやつ、だよな?」
「うん……なんでだろ、なんでパリにいるの。しかもこんな偶然って……」

 怖くなって、体が震えてくる。足も震えて呼吸もまた出来なくなりそうだったから、僕は慌ててテオにしがみついた。

「ごめっ……」
「ユウリが謝ることじゃないだろ、大丈夫だ」

 僕をあやすように、テオの手が僕の背中を優しくポンポンしてくれる。彼が僕の心を、救ってくれる。

「一応、リュカには捕まえておくように言ってある。アイツもなんか話したいみたいだったし、お互い話し合う時間が必要なら、リュカに場所確保してもらうけど、どうする?」

 そうだ、リュカさんまで僕は巻き込んでるんだ。

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