上 下
33 / 44
7 -Sept-

ここにいるはずのない人

しおりを挟む
 フライドポテト、チュロス、プレッツェルにラクレット。目移りしそうな出店の数々に、ワクワクが止まらない。本能のまま一通り食べたいものを食べて、雑貨を見て回った。温かそうなルームウェアやモコモコした帽子、壺やお皿、本も売ってる。

「あ。オーナメントかわいい」
「買う? どれがいい?」
「んー、でもこのあいだも別のマルシェで買ったからなあ」
「何個あってもいいでしょ。気に入ったのあれば買って飾ろう」

 僕たちのやり取りを見ていたリュカさんが、なにやら口元をニヤつかせている。

「リュカさん? どうしたの?」
「ん? いやなんか、二人見てるとこっちまで幸せな気持ちになるなぁって思ってさ」
「あっ……」
「リュカも恋人作って来ればいい」
「うん、そうだね。……って違う、俺じゃなくて優理とテオの話!」
「あぁ。羨ましいのかと思った」
「コイツっ、可愛くないな!」

 しれっとした顔で言うテオに、リュカさんがヘッドロックをかける。そんな二人のやり取りを見ていることが、僕も幸せだなって思う。
 僕よりもずっと前から二人は知り合いで、友達。セフレだったとか言ってたけど、それはリュカさんを慰めるための一時的なカンケイだったと、前に二人が言っていた。優しい二人が作り出した、最善の手段だったんだろうな。そんな何でも曝け出せる相手がいることに、ちょっと羨ましさを感じる。時折、僕の入る隙間がなくなる瞬間があって、少しだけ寂しい気持ちになるのはナイショだけど。

 二人のやり取りを横目に、僕は他の雑貨も見ようと傍にあるスノードームに手を伸ばした。すると同時に隣から手が伸びてきて、指先がぶつかってしまった。

「あっすみません!」
「いえ! こちらこそ」

 咄嗟に出てしまった日本語に返ってきた返事は、日本語。
 妙な嬉しさを感じで顔を上げると、その人は、絶対ここにいるはずのない人だった。

「え……」
「松下、くん」
「――……小此木先生」

 なんで、なんで、なんで先生がここにいるの?!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

「恋の熱」-義理の弟×兄- 

悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。 兄:楓 弟:響也 お互い目が離せなくなる。 再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。 両親不在のある夏の日。 響也が楓に、ある提案をする。 弟&年下攻めです(^^。 楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。 セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。 ジリジリした熱い感じで✨ 楽しんでいただけますように。 (表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...