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6 -Six-
テオが心を救ってくれる
しおりを挟むふと、あの人のことを思い出した。僕もそうだった。学校なんかどうでもよくなったっていう理由のほかに、あの人の向かう幸せに僕が邪魔になったのなら、消えてしまった方がいいと思ったからなんだ。あの人が僕を裏切ったのは、きっとせっかく叶えた教師という夢を、絶たれたくなかったからなんだから。
「好きだからこそ、その人の負担にはなりたくない。そうなるくらいなら、自ら離れよう。それもまた、愛情なんだよ」
キッチンに立ち、料理を作っているリュカさんの背中を眺めながら、ゆっくり言葉を紡いだ。
もしかしたら声に、実感が滲み出てしまったかもしれない。ふと隣から視線を感じて顔を向けると、真剣な顔をしたテオに見つめられていた。そして僕の手にそっと触れ、少し強く握って体ごと僕に向けてくる。
「俺からは離れないで、ユウリ。俺はユウリを負担に思ったりしないし、邪魔になんて思わないから」
「ほんとかなぁ? まだ僕の告白を聞いてもいないのに?」
「俺が好きだからだよ。なら、今ここでキスしようか?」
「やっ、いい。やめてそれは」
彼の言葉は心からの本音。それが全身から溢れるほどに伝わってきて、僕の心が温かいもので満たされていく。
わざとらしく拒否の態度を示すと、テオは「なんだと~!」と言いながら僕のわき腹を擽ってくる。体を捩りながら擽りに堪えて笑っていたら、後ろのテーブルに座っていたおじさんたちに咳払いをされてしまった。僕はすぐに頭を下げたけど、その近くで食事をしていた女性二人からはニコやかに手で作ったハートを送られたので、テオは僕の手を取って甲の辺りにキスをしてみせるというリアクションを送った。
「ちょ、ちょっと」
「邪険にする人を気にするより、好意を示してくれる人を大事にしなきゃ。でしょ?」
戸惑いながら女の人たちを見ると、彼女たちも僕たちを盛り立てるように、両手の親指を立てて何度も押すような仕草をしてくれている。
「Merci beaucoup」
彼女たちにウィンクするテオに倣って、僕も「メルシー」と言ってペコリと頭を下げてみる。すると彼女たちはニコニコ微笑みながら「Mignon~」「Tellement mignon !」と口々に呟くので、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
「かわいいってさ」
先に前へ向き直った僕に、テオが耳打ちしてくる。
「聞こえてたよ、はずかしい」
「でも、心は軽いだろ?」
言われてみればそうだと、気が付いた。日本にいた時の僕なら確実に、おじさんたちの方を気にしてしまっていたと思う。それで心が疲弊して、どんどん自分を内側に隠していた。でも、彼のおかげで今は、心が苦しくない。
僕がコクリと頷くと、彼は頭を撫でてくれる。その優しい手が、また僕の心を救ってくれた。
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