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5 -Cinq-
あなたと見る同じ景色
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僕たちのほかにも何組か人が待っていて、その人たちと一緒に球体の下に入る。円形の柵の中、定員いっぱい。スタッフの人の説明があって、いよいよ気球が宙に浮いた。
ゆっくりと上昇していく気球。乗り合わせた子供たちは、嬉しそうに声を上げている。そして制限された上空に辿り着いた時、僕はその景色に圧倒された。
一望するパリの街。右手にはエッフェル塔が見えてくる。上空から見るパリは、どことなく東京の景色にも似ているけれど、やっぱりどこか違う。周りにいるのはフランス人だし、聞こえてくる声もフランス語。建物だって、遠くに見えるビル群は新宿みたいだけど、下を見れば日本では見ない建物が密集している。
「すごい……面白い……」
「俺もこれ乗ったの子供の時だから、新鮮で楽しいな」
今、同じ景色を見ている。テオが見ている景色も、僕が見ている景色も、同じ。真っ直ぐに景色を眺める彼の整った横顔は、純粋ですごく美しい。日の光に照らされて、キラキラと輝いている。そのうち僕の視線に気付いて彼が振り返るまで、僕自身が彼に見惚れていた事に気付かなかった。
「ん? どうしたの?」
慌てて視線をそらし、また景色に目を向ける。
「今日を一緒に過ごして、わかったんだ。初めて会った時は最悪だったし、雰囲気も似ていて年齢もあの人と同じで、あなたには関わりたくないって思ってたんだけど……」
テオが、僕の横顔をじっと見つめている。こんな酷いことを言ってるのに、黙って聞いてくれている。
「あなたに優しくされて、絆されそうになってる自分がいて、やっぱり関わっちゃいけないって思って……」
まとめるのが難しい感情を、どうにか言葉にしてみている。彼に惹かれている心を整理するために。チョロい自分を、肯定するために。心臓が、重たい音で鳴っている。指先が、冷たくなっていく気がする。日本から離れたこの地で僕は、失恋の余韻と新しい彼との出会いに翻弄されて戦っている。
次の言葉を紡ぎだせなくて小さく拳を握りしめたら、テオの手がそっと、僕の拳を包んだ。何も言わずにただ、僕を見つめて。
「……関わっちゃいけないって、思ったのに……」
その目に見つめられてしまったら、僕の口からは自然と言葉が溢れ出ていた。
「あなたが、優しいから……無邪気な姿も、微笑みかけてくれるその顔も、優しくて温かい手も、ぜんぶ……僕の心を、癒すんだ。もう恋愛なんてしないって、そう決めて日本を出てきたのに。それなのに……」
「……うん」
「あなたの真っ直ぐな言葉が、突き刺さった。あなたは、あの人とは違う。もう信じて裏切られるのなんて嫌だって思うのに……あなたの一目惚れを、信じたくなりました」
「ユウリ、それって……」
「でも僕は、正直まだ恋愛する気分じゃない。だけど……前向きに、一歩踏み出したい。それで、乗り越えられたその先の景色を、見てみたいと思った。テオと一緒に」
今の思いを、すべて伝えた。真っ直ぐ真剣に、彼を見つめて。するとテオは衝動を抑えるような顔をして唇を噛み、静かに僕を引き寄せ抱き竦めた。優しく、包み込むように。
「降りたら、キスさせて?」
息を吐くような声で、僕の耳に注がれる言葉。それだけで、僕の耳が熱を持つ。
彼の問いに応えるように「ん……」と返し、そっと腰に腕を回したら、僕を抱き竦める手が少し強くなった。
気球を降りて軽くキスをして、再び僕たちは歩き出す。
「デートの予定はここまでなんだけど……ユウリ、このあと俺の家に来ない? 紅茶でも飲みながらもう少し、話がしたいな」
「……うん、行く」
ゆっくりと上昇していく気球。乗り合わせた子供たちは、嬉しそうに声を上げている。そして制限された上空に辿り着いた時、僕はその景色に圧倒された。
一望するパリの街。右手にはエッフェル塔が見えてくる。上空から見るパリは、どことなく東京の景色にも似ているけれど、やっぱりどこか違う。周りにいるのはフランス人だし、聞こえてくる声もフランス語。建物だって、遠くに見えるビル群は新宿みたいだけど、下を見れば日本では見ない建物が密集している。
「すごい……面白い……」
「俺もこれ乗ったの子供の時だから、新鮮で楽しいな」
今、同じ景色を見ている。テオが見ている景色も、僕が見ている景色も、同じ。真っ直ぐに景色を眺める彼の整った横顔は、純粋ですごく美しい。日の光に照らされて、キラキラと輝いている。そのうち僕の視線に気付いて彼が振り返るまで、僕自身が彼に見惚れていた事に気付かなかった。
「ん? どうしたの?」
慌てて視線をそらし、また景色に目を向ける。
「今日を一緒に過ごして、わかったんだ。初めて会った時は最悪だったし、雰囲気も似ていて年齢もあの人と同じで、あなたには関わりたくないって思ってたんだけど……」
テオが、僕の横顔をじっと見つめている。こんな酷いことを言ってるのに、黙って聞いてくれている。
「あなたに優しくされて、絆されそうになってる自分がいて、やっぱり関わっちゃいけないって思って……」
まとめるのが難しい感情を、どうにか言葉にしてみている。彼に惹かれている心を整理するために。チョロい自分を、肯定するために。心臓が、重たい音で鳴っている。指先が、冷たくなっていく気がする。日本から離れたこの地で僕は、失恋の余韻と新しい彼との出会いに翻弄されて戦っている。
次の言葉を紡ぎだせなくて小さく拳を握りしめたら、テオの手がそっと、僕の拳を包んだ。何も言わずにただ、僕を見つめて。
「……関わっちゃいけないって、思ったのに……」
その目に見つめられてしまったら、僕の口からは自然と言葉が溢れ出ていた。
「あなたが、優しいから……無邪気な姿も、微笑みかけてくれるその顔も、優しくて温かい手も、ぜんぶ……僕の心を、癒すんだ。もう恋愛なんてしないって、そう決めて日本を出てきたのに。それなのに……」
「……うん」
「あなたの真っ直ぐな言葉が、突き刺さった。あなたは、あの人とは違う。もう信じて裏切られるのなんて嫌だって思うのに……あなたの一目惚れを、信じたくなりました」
「ユウリ、それって……」
「でも僕は、正直まだ恋愛する気分じゃない。だけど……前向きに、一歩踏み出したい。それで、乗り越えられたその先の景色を、見てみたいと思った。テオと一緒に」
今の思いを、すべて伝えた。真っ直ぐ真剣に、彼を見つめて。するとテオは衝動を抑えるような顔をして唇を噛み、静かに僕を引き寄せ抱き竦めた。優しく、包み込むように。
「降りたら、キスさせて?」
息を吐くような声で、僕の耳に注がれる言葉。それだけで、僕の耳が熱を持つ。
彼の問いに応えるように「ん……」と返し、そっと腰に腕を回したら、僕を抱き竦める手が少し強くなった。
気球を降りて軽くキスをして、再び僕たちは歩き出す。
「デートの予定はここまでなんだけど……ユウリ、このあと俺の家に来ない? 紅茶でも飲みながらもう少し、話がしたいな」
「……うん、行く」
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