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5 -Cinq-
知らなかったパリの街
しおりを挟む「焦らない、焦らない……」
唾を飲むように喉が動いた。と思ったら突然僕から目をそらすように下を向いて、何かをボソボソと呟いている。
「なに?」
「なんでもない。よし、じゃあ次の目的地に行こうか!」
「う、うん」
チュイルリー公園を出てバスに乗り、僕たちは次の目的地、アンドレ=シトロエン公園へ向かった。コンコルド広場の周りを道に沿って走るバス。そこから真っ直ぐ走ってパリの中心部から離れていくと、洗練された建物が立ち並ぶ。わりと落ち着いた雰囲気を窓の外に感じて、僕の心は踊った。
喧騒から離れ、セーヌ川沿いを走っていくと、見えてきたのはエッフェル塔。初めて見た本物のエッフェル塔が僕には黄金に輝いて見えて、その存在に釘付けになった。そこから少ししたら、パリ水族館前で別のバスに乗り換える。日本で見たことがあるようなテーマパークっぽい感じじゃなく、その外観はまるで美術館のようで、そこでもつい見惚れてしまう。
「ユウリ、バス乗り遅れちゃう」
「う、うん」
無事乗り換えたバスがパリ水族館前を出て左に曲がると、目の前にドドンとそびえるエッフェル塔。バスの中からじゃ足しか見えなかったけど、その存在感は、すごかった。
イエナ橋を渡って今度は右へ。するとどことなく、見慣れたような街の景色。この既視感は何だろうって思ってたら、わかってしまった。建物の感じが中心部の洗練されたものとは違って、日本の市街地の街並みに似ていたんだ。ちょうど通りにパリ日本文化会館も見えてきて、余計にそう思えたのかもしれない。
よくテレビ番組とかで見る、パリと言えば! なところしか知らなかった僕にとって、中心部から離れればこうした風景があると知れたことは、大きな刺激になった。
もしかして、テオはこの景色を僕に見せたくて、敢えてメトロは使わずにバスで行く計画を立ててくれたのかな。メトロのほうが早く着きそうだけど、地下に潜っちゃったらこの素敵な景色は見られなかったもんね。
ふとそんなことを思って窓の外へ向けていた目をそらし、隣に座るテオに振り返った。すると瞬時にバチッと目が合って、テオも驚いた顔をする。
「ん?」
「テオのおかげで、知らなかったパリの街が見れた。ありがと」
一瞬目を大きく開いたテオは、すぐに優しく微笑んで、僕の頭を撫でる。
「どういたしまして」
頭に触れる手の感触が、心地いい。胸の奥が、じりじりと温かい。
しばらくバスは走り続ける。そして公園付近のバス停に到着したら、そこからは歩いて公園へ。広大なアンドレ=シトロエン公園は、整備された芝生が一面に広がる、馴染み深いちょっと近未来的な公園。舗装された白い石畳の上を歩いていくと、見えてきたのは丸い気球。
「あれに乗るよ、ユウリ」
チケットを買って、いざ気球乗り場へ。
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