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4 -Quatre-

新しい刺激を求めて

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「いま、何にしようか悩んでる?」
「そうですけど」
「その顔もかわいいなぁって思って見てた」
「っ……」

 もう、いちいちストレートすぎてほんとヤダ。
 頬杖ついてる姿も様になっててカッコイイとか思っちゃってる自分もヤダ。
 堪らずメニューで顔を隠すと、隣からクスクスと笑う声が聞こえてくる。

「ねえユウリ。こっちにもメロンパンの店あるらしいから、行ってみるか?」
「え、行きたい」
「よし、じゃあこれから……は、仕事があるから、明日どう?」
「あっ……でも……」

 これってなんだか、デートの約束みたいだ。もしかしたらテオさんはそんな気なく誘ってくれてるのかもしれないけど、でももしこれですんなりオッケーなんてしたら、さすがにチョロすぎないか? 僕。

「何か用事がある?」

 僕の悶々とした気持ちをよそに、テオさんは純粋な目をして顔を覗き込んでくる。

「ない、ですけど……」


 ――新しい恋もまた、心を癒す切っ掛けになるんじゃない?


 そんな悶々としている僕の脳内に流れ込んでくる、お母さんの言葉。
 新しい恋……新しい恋か……そんなの、今はする気分になれない。だけどおじいちゃんも『人生は楽しんだもん勝ちだ』って言ってた。
 僕だって、負けたまま沼地を行くような人生は嫌だ。できるなら、前を向いて歩いていきたい。それを乗り越えるには、自分でまず一歩踏み出さないといけないってことも、わかってる。だから……

「……明日、行きたいです。連れて行ってください」
「よかった! じゃあ明日朝から出掛けよう。メロンパンのお店以外にも、色んな所へ連れて行ってあげるよ。期待してて」

 そう言って僕の髪を撫でて席を立つと、テオさんはリュカさんに会計を渡して、仕事へ戻っていった。

「テオと何話してたの?」
「明日、メロンパンを売ってるお店に連れていってくれるって……」
「Wow, c'est bien !」
「いい、んですかね」
「いいに決まってる。ツラい記憶を過去にするには、新しい刺激が必要でしょ。テオに色んなとこ連れて行ってもらって、思い切り楽しんでおいで」
「……はい!」

 そうだよね。恋愛じゃなくても、これは僕が一歩踏み出す新しい刺激だ。
 明日はテオさんと一緒に、パリを思い切り楽しもう。
 曇っていた表情が分かりやすく晴れたのが見ていて分かったのか、リュカさんは何かを含んだように笑って、僕の頭を優しい手付きで撫でてくれた。

「んふふ。優理は素直で可愛いねぇ」


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