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4 -Quatre-

ほだされそうになってる僕はバカだ

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「……何なんですか、ほんとに」
「ん?」
「リュカさんから聞いてますよね? あなたは、向こうで付き合っていた恋人に似てるからムリだって」
「でも俺は、その彼じゃない」

 テオさんの目が突然真剣な色に変わり、空気が一気に張り詰める。

「ユウリ、俺を見て」

 その空気に呑まれるように、僕は発する言葉を失って、静かに彼の目を見つめるしかできない。

「俺は、フランス人です。パン屋で働いています。いつか自分の店を持つことが目標です。そして、ここで君を一目見た瞬間、恋に落ちました。俺は君のことをもっと知りたいです。だから君も、俺を見て、知ってくれたら嬉しいです」

 まるでフランス語の構文を組み立てるように、僕の目を見つめながら話す。ゆっくり、丁寧に、僕にちゃんと伝わるように。その真剣な眼差しに、僕の心がじわじわと握られていくような感覚に陥っていく。
 あぁ、ほら、これはもうダメだ。胸がトクン、トクンと音を立て始めた。

「伝わった?」

 最後に優しく微笑まれたら、僕はコクリと大きく頷くしかできなくなった。

「よかった」

 僕の反応を見たらホッとしたような顔をして、そっと鼻の頭にキスをする。
 顔を離して僕の目を見つめ、ニコッと笑うテオさん。見下ろされながら両手で髪を梳くように撫でられるのも悪くないなとか思ってしまったから、僕はバカだ。傷も癒えていないうちに絆されかけてるなんて、チョロいにも程があるだろ。

 ……だけど何故だか、彼から目が離せないでいる。

「じゃあ俺を知ってもらうために、これから毎日パンを届けるよ」
「ま、毎日じゃなくていいです」
「そう? ちなみに、ユウリが好きなパンはなに?」
「惣菜パン」
「ソ、ソウザ……?」
「ソウザイパン。パン生地をウインナーに巻いてるやつとか、コロッケを挟んでるやつ。あ、クリームパンとかも好きかな」
「ま、待って! それが日本のパン?」
「そうですよ。あ、リュカさんは知ってるかも」
「リュカは知ってる……」
「うん、聞いてみて? じゃあ僕はこれで~」
「あっ!」

 よし、逃げられた!
 テオさんが油断した隙を見て、僕は彼の腕の間から抜け出した。

「あっ! ユウリ!」

 後ろから声を掛けられても、僕は振り返らない。
 こんなまんまと落とされそうになっている自分を、否定するために。

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