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2 -Deux-

いきなり口説いてくるとか意味わかんない!

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「君は美しいね。さっき、目が合った瞬間好きになっちゃったんだ、俺」

 今度は右手をそっと取られ、妙に熱っぽい目で見つめられている。お父さんとの普段の会話では出てこなかった単語が並べ立てられているけれど、雰囲気からしてこれは多分、口説かれてるんだろうなってことはわかる。

「えと、リュカさん僕これ、口説かれて……る?」

 確認のために一応、聞いてみる。するとリュカさんは腕組みをして壁に寄り掛かり、眉を垂らして微笑みながら頷いた。

「さっき、一目惚れしたって言ってたからね」
「はあ? いやあの、ムリです。C'est impossible. Désolé」
「pour quoi ?」
「な、なんでって……ちょ、指やめて!」

 情熱的な目で見つめながら、僕の指先を摘まんでスリスリしてくる。ビックリして思わず手を引っ込めたら、残念そうな顔をした。

「リュカさんもなんでそんな冷静なんですか!」
「ん?」
「二人、付き合ってるんでしょ?」
「あぁ――……付き合ってるとかじゃないから」
「はい?」
「俺とリュカは、セックスフレンドだよ」
「セッ……」

 そんな大胆なことを軽々と!

「でもお互い好きな人ができたら終わりって決めてたから、さっき終わったよね」
「あぁ」
「はああ?」

 何それ、何それ、全然意味わかんないんですけど!

「ってか、かっる!!」

 思わず日本語で毒づいてしまった。
 そんな僕の言葉に吹き出して笑うリュカさんと、わからなくて困ったように首を傾げるテオさん。「おい、なんだよ」とリュカさんに聞くテオさんは、拗ねた子供のように口を尖らせている。

「まあまずは、お互いを知っていくところからじゃない?」
「そっか、それもそうだな! ちょっと急ぎ過ぎた」
「いや、そっかじゃなくて。そもそも僕は、今のところ恋愛する気ないんで!」
「なんで?」

 また、なんで。

「っ……そういうのに充分傷ついてこっちに来てるので、今はそういうのいらないです。それに……」

 この人の見た目の雰囲気が、似てるんだ。あの人に。

「とにかく、むりです。ごめんなさい」

 思い出してしまったら、背筋をゾクゾクっと悪寒が走る。

「リュカさん、ごちそうさまでした」
「あっ……またね!」

 お代を置いて早足に店を出た。その早足のまま、僕はどこにも目を向けずにおじいちゃんの家へ帰る。
 今は、恋愛なんていらない。思い出したくないんだ。あの人のことも、恋愛をしてた時の、みじめな自分のことも。

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