パッサージュで朝食を ~パリで出会った運命の人~

朝賀 悠月

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3 -Trois-

母とのビデオ通話で得たもの

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 その日の夜、母から着信があって、ビデオ通話を繫いだ。

『Bonsoir. どお~? そっちは』
「まあ楽しくやってるよ、けど……」
『なに、なんかあった?』
「くどかれた」
『口説かれた?! やだ~! さすがわたしの優理ちゃんっ。なに、女の人? それともイケメン? 優理のタイプだった?』
「もおお母さん! んなこと言ってる場合じゃないよ! せっかく心を癒すためにこっちに来たのにさあ」
『でも、新しい恋もまた、心を癒す切っ掛けになると思うけどなぁ』

 画面の中の母は、いつものポジティブ全開でニコニコしている。

『そういえば、優理に私とオリヴィエの話、したことあったっけ?』
「お父さんとお母さんの話?」
『そう、出会った頃の話』


 ――僕の両親は、フランスで出会った。

 母がモデルの仕事でパリに訪れた際、出席した晩餐会のシェフが父だった。
 挨拶にきた父が、母に一目ぼれ。
 思わず「貴方に恋をしてしまいました」と伝えるけれど「Merci」とだけ返されてしまう。
 しかし父は諦めなかった。
 数日間の滞在で再び父の店を訪れた母。
 仲間にあの女性が来たと教えられると、すぐにテーブルへ向かう父。
「あなたの料理の味が忘れられなくて」と笑う母に、もう一度告白。
「それなら私が、貴方のために毎日料理を作りますよ」と。
 すると母は「毎日?」と笑った。
「わたし、今日の夜の便で日本に帰るんです。あなたの料理、本当に美味しかったわ」
 そう言って立ち去ろうとする母に、「なら、私が! 日本へ行きます!」と言ったという。
 結婚に興味がなかった母を、父が猛アタックして落とした。
 そうして父は日本へ来て、日本のホテルやフランス料理店で働きながら、母とのデートや食事を振る舞うことを重ね、ついに母と結婚し、日本でフランス料理の店を出すことも叶えた。


『言ったでしょ? 素敵な出会いは、いつ、どこに転がってるかわからないって』

 父と母のなれそめを聞いて、母の言葉に真実味が増す。
 いつ、どこに……もしかしたらこれが、その出会いかもしれない。けれど、違う可能性だってある。それに、やっぱり今はまだ……

『もしかしたらその人が、優理を癒してくれる人なのかもよ』
「……それでも、僕はもう、恋愛したくない」

 怖かった。また誰かを好きになったとして、思いが通じ合ったとして、でもそれが独りよがりの思い過ごしで簡単に裏切られてしまうかもしれない。そんな、脆く苦しい思いをまた味わう可能性のあることが。
 母との通話を切った後も、僕はなんだか眠れない、そんな夜を過ごした。

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