パッサージュで朝食を ~パリで出会った運命の人~

朝賀 悠月

文字の大きさ
上 下
5 / 44
2 -Deux-

最悪な気分が収まらない

しおりを挟む
 サイアクだ。最悪。まだ心の傷が癒えてない間にああいう場面には遭遇したくなかった。
 僕は足早に階段を下りていって、パッサージュの通りへ出た。
 まだ人の通らないパッサージュの中を、ドカドカと大股で歩く。
 どれだけ歩き回っても、さっき見た光景が頭の中から消えてくれない。
 朝ご飯を食べても、家の中で映画を見てても、ずっとこびりついてて離れない。
 これはもう何をしててもダメだ。そう思った僕は、愚痴を聞いてほしくておじいちゃんの本屋へ向かった。

「おお、優理。どうした、朝の不機嫌はまだ直らないのか?」

 店の入り口近くに設置されているデスクで書きものをしていたおじいちゃんが、やけに機嫌が悪い僕を見て開口一番に聞いてくる。言ってなかったのに、どうやら気付いていたみたい。

「朝早く起きちゃったから、パッサージュの中散歩しようと思って家を出たの。それで下に降りようと思ったら、廊下でキスを見せつけられたんだ。さいあく」

 正確には見せつけられたんじゃなくて遭遇しちゃった、なんだけど。不機嫌のせいで言葉が勝手に変換されちゃった。

「はは。まあ仕方ないさ。キスなんてこっちじゃよく見る光景だよ」
「違うの! 普通のじゃなくて濃厚なやつ!」
「それは、刺激が強かったなぁ。じゃあそれが頭から離れなくて、それでずっと不機嫌なんだな? 優理は」
「……そう」

 まるで僕を見透かすように言うので、観念して素直に頷く。するとおじいちゃんは僕の頭をポンポンと撫でて、幾らかのお金をくれた。
 なんか、おじいちゃんにとっては僕って、まだまだ小さい子供みたいなのかな。

「そろそろパッサージュを出て、この辺りを散歩してみるのもいいんじゃないか? いい気晴らしになる」

 たしかにそうかもしれない。こっちに来てからおじいちゃんの家とこのパッサージュの中だけで過ごしていて、買い物や食事もおじいちゃんが買ってきてくれていたから、一人で出歩くのなんて外を初めてだ。気晴らし、行ってみようかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...