パッサージュで朝食を ~パリで出会った運命の人~

朝賀 悠月

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最悪な気分が収まらない

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 サイアクだ。最悪。まだ心の傷が癒えてない間にああいう場面には遭遇したくなかった。
 僕は足早に階段を下りていって、パッサージュの通りへ出た。
 まだ人の通らないパッサージュの中を、ドカドカと大股で歩く。
 どれだけ歩き回っても、さっき見た光景が頭の中から消えてくれない。
 朝ご飯を食べても、家の中で映画を見てても、ずっとこびりついてて離れない。
 これはもう何をしててもダメだ。そう思った僕は、愚痴を聞いてほしくておじいちゃんの本屋へ向かった。

「おお、優理。どうした、朝の不機嫌はまだ直らないのか?」

 店の入り口近くに設置されているデスクで書きものをしていたおじいちゃんが、やけに機嫌が悪い僕を見て開口一番に聞いてくる。言ってなかったのに、どうやら気付いていたみたい。

「朝早く起きちゃったから、パッサージュの中散歩しようと思って家を出たの。それで下に降りようと思ったら、廊下でキスを見せつけられたんだ。さいあく」

 正確には見せつけられたんじゃなくて遭遇しちゃった、なんだけど。不機嫌のせいで言葉が勝手に変換されちゃった。

「はは。まあ仕方ないさ。キスなんてこっちじゃよく見る光景だよ」
「違うの! 普通のじゃなくて濃厚なやつ!」
「それは、刺激が強かったなぁ。じゃあそれが頭から離れなくて、それでずっと不機嫌なんだな? 優理は」
「……そう」

 まるで僕を見透かすように言うので、観念して素直に頷く。するとおじいちゃんは僕の頭をポンポンと撫でて、幾らかのお金をくれた。
 なんか、おじいちゃんにとっては僕って、まだまだ小さい子供みたいなのかな。

「そろそろパッサージュを出て、この辺りを散歩してみるのもいいんじゃないか? いい気晴らしになる」

 たしかにそうかもしれない。こっちに来てからおじいちゃんの家とこのパッサージュの中だけで過ごしていて、買い物や食事もおじいちゃんが買ってきてくれていたから、一人で出歩くのなんて外を初めてだ。気晴らし、行ってみようかな。
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