上 下
3 / 44
1 -Un-

おじいちゃんのお店とパッサージュの人たち

しおりを挟む
 適当に荷物を置いたら、今度は緩い螺旋階段で下りていく。このアパルトマンとパッサージュは、エレベーターと階段で行き来できるみたい。階段を降りながら、昔はこの階段しかなくエレベーターは数年前に設置されたのだと教えてくれた。
 鉄の格子扉を開けてパッサージュへ出ると、おじいちゃんが歩きながら案内してくれた。布地や手芸用品を扱うお店、DIYに使う工具などを扱うお店、アクセサリーや宝飾店、骨董品店や内装がオシャレなカフェなど。色んなお店が軒を連ねている。その中に、おじいちゃんが営んでいる書店があった。店の鍵を開けてドアを開け、店内へ入る。壁一面の書棚には、パリのことが書かれた本や、フランスの作家さんの本、それから日本の漫画の翻訳版も置いてある。これを置いてから、日本が好きな人たちがよく集まるようになったらしい。

「家の中にいてもいいし、ここで本を読んでもいい。どこかへ出かけたっていいし、優理の思うまま、自由に過ごすといいよ。ただし、危険なことだけはしないこと。わかったか?」
「わかった。ありがとう、おじいちゃん」
「存分に楽しみなさい」

 おじいちゃんは、寛大な人だと思う。こんな僕を受け入れてくれて、本当に感謝しかない。
 店内に仕舞っていた本を表に出すのという作業を手伝いながら、お父さんやお母さんの近況を話す。すると地下から突然、扉をノックする音が聞こえてきた。

「ガスパール、戻ったのか?」

 その声を聞いておじいちゃんが店の端にある階段を下りドアを開けると、おじいちゃんと同じくらいの見た目をした男性が入ってきた。

「優理、このパッサージュで骨董品店をやってる」
「フェリックスだ。君がガスパールの孫か! 綺麗な顔をしているなぁ、見惚れるようだよ」
「おい俺の孫を口説くなよ」
「こんなじじぃに興味ないだろう。なあ?」

 そう言って僕にウィンクするフェリックスさん。そのスマートな振る舞いが、妙にカッコイイ。

「まったく、色ボケが」

 おじいちゃんは、面白くなさそうに毒づく。

「ガスパールと俺は若い時からこのパッサージュで一緒にやってるんだ」
「昔馴染みの腐れ縁ってやつだな」
「コイツのこういうところが好きで、なんだかんだ付き合いが長い」

 フェリックスさんは豪快に笑いながら、おじいちゃんの肩を抱く。
 おじいちゃんも満更ではなさそうに、口角を上げて小さく笑っている。

「だからガスパールの孫は俺の孫みたいなもんだ。ここでわからないことがあったらなんでも聞いてくれ」
「ありがとうございます」
「あぁそうだ、こうしちゃいられないな。みんなにも話さなきゃ」

 じゃあな、と言って出て行くフェリックスさん。随分忙しない人だったけど、明るくて良い人そう。
 そのあとフェリックスさんの話を聞いたらしいおじいちゃんの昔馴染みだという人たちが、この店に訪れた。
 アクセサリー店のマリーさん、手芸店のエヴァンさん……みんな、いい人たちだった。優しくて、あたたかく迎えてくれて、日本から来た僕が聞き取りやすいように、ゆっくり丁寧に言葉を紡いでくれて。だから僕も、甘えてばかりじゃなくてもっとスムーズにみんなとしゃべれるようになりたいと思った。これから暫く、ここで暮らすのだから。

「おじいちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
「ゆっくりでいいんだ。自分らしくな」

 そう言っておじいちゃんは、僕を抱き締めて背中を撫ででくれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

「恋の熱」-義理の弟×兄- 

悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。 兄:楓 弟:響也 お互い目が離せなくなる。 再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。 両親不在のある夏の日。 響也が楓に、ある提案をする。 弟&年下攻めです(^^。 楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。 セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。 ジリジリした熱い感じで✨ 楽しんでいただけますように。 (表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...