彼女持ちのドМな親友の願望を叶えてあげる健気で哀れな俺の話

朝賀 悠月

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愛されてるって錯覚しそう

航ちゃんのついたウソ

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 あぁ本当に、ダメだ。笑顔の中の鋭い視線。この目、この表情。ハッタリとかじゃなく、完全に理解されてる。

「コータの目に見つめられると、堪らなくなっちゃうでしょ。だから耐えられない。わかるぅ~!」
「なっ、なんで!」
「だって俺がそうだもん。好きな人の目は、耐えられない」

 ふざけた口調で言ったかと思ったら、突然の真面目なトーン。自虐と確信をもった目と、上がる口角。おしまいと言ったくせに、好きな人の話をまた自分で持ち出して、俺を詰める。
 ずるい。誤魔化しがきかない。この人には。

「っ……い、言わないでください、航ちゃんには」
「言わないよ。そこまで野暮じゃないから安心して」

 俺の肩をポンと叩いて、微笑む。どうやらその言葉に、ウソはないみたいだ。
 瞬時に走った緊張と背筋を撫でた寒気を、手に持っていたホットのカフェラテを飲んでやり過ごす。すると先輩も同じように、ペットボトルのホットミルクティーをゴクゴクと飲み込んでいた。

「……先輩は、よく耐えられますね」
「ん?」
「あんな至近距離でじっくり見られて、しかも限界まで触れてもらえなくて……」
「え?」
「……え?」
「至近距離?」

 キョトンとした顔。不思議そうに小首を傾げ、次にはニヤッとした笑みを浮かべた。

「待ってそれ、あっくんだからじゃない?」
「俺、だから?」
「だって俺はコータに『ただそこに立って、俺を見てて』って命令しかしてないもん」
「えっ……そうなんですか?」
「コータは離れたとこから見てるだけで、俺には指一本も触れないよ。触れなくていいって言ってるから。俺に対して何の感情もないあの目で見られるのがイイのよ。てかなにキミら、そんなディープなプレイしてんの?」
「うっ……言いません!」
「それ言ってるようなもんだけど」

 クスッと笑うナギ先輩に、してやられた気分で悔しくなる。
 ていうか、なに、どういうこと? だって航ちゃんは俺に、アレがナギ先輩としてるプレイだって言った。あんな至近距離で舐め回すように見つめられて、あんなに、あんな……

 ああダメやばい。思い出しただけで勃ちそう。

 気恥ずかしさに堪らず両手で顔を覆ったら、隣からナギ先輩の楽しそうに笑う声が聞こえてきた。

「あっくん可愛いなぁ~」
「か、からかわないでください!」
「揶揄ってないよ。素直で可愛いって、本気で思ってる」

 頭をモシャっと撫でられて、反射的にその手を振りほどいた。それでもナギ先輩は、楽しそうに笑う。

「……あ」
「ん?」
「ちょっと待って」

 ふと思い出した。こないだ構内で出会った時のこと。この人とした会話が頭をグルグル駆け巡って、妙な点に気付く。

「じゃあ先輩は、航ちゃんとはセックスしてないってことですか?」
「ああー……」
「キスとかも? 触れてないって、そういうことですよね?」
「んんー……?」
「ライバルとか言って、俺のこと揶揄った!」
「……あは、バレちゃった」

 言いながら先輩は、片目を瞑ってペロッと舌を出す。

「でもそもそも俺、確信的なことは一言も言ってないからね。コータとセックスしてるなんて言ってないでしょ? 勝手に敵意剥き出しで突っかかって来てたのは篤志くんだし、俺をライバルに据えたのも篤志くんじゃん? だから、俺はソレに乗っかってあげただけー」

 そう言われたら確かに、この人の言う通りだ。俺はなんの確証もなく、ただ航ちゃんとしょっちゅう一緒にいるって理由だけで決めつけて、ライバル視してた。

「……ごめん、なさい」
「そうやって素直に謝れちゃうとこも、篤志くんのいいとこだよねー」
「だって航ちゃんを奪われたくなかったから……」
「うんうん、そうだよねー」
「いつも一緒にいるから、セフレの中でも先輩がお気に入りなんだと思って……」
「言ったでしょ? 気に入ってるのは俺。むしろコータのお気に入りは」

 そこまで言いかけて先輩は「あっ」という顔をして、次にはニコッと笑顔を作った。

「大丈夫、大丈夫。よしよし~」
「ちょっ……なにがだいじょぶなんですか……」
「んん、こっちの話。とにかく安心していいってこと」

 俯く俺を、先輩の両腕がふわりと包み込んでくる。優しい声色で、宥めるように頭を撫でられて、なんだか調子が狂う。意地悪だけど、意外といい人なのか? よくわかんないや。
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