彼女持ちのドМな親友の願望を叶えてあげる健気で哀れな俺の話

朝賀 悠月

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航ちゃんに視姦されてみたい

新たな俺の決意

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 全身がビクリと跳ね上がって辺りを見回すと、講義棟側から歩いてくるのが見える。

「こ、こーちゃん!?」
「なんで先輩と一緒にいるの?」
「偶然だよ。向こうの棟に用があって歩いてたら、バッタリ。ねー? あっくん」

 同じように立ち上がって俺の隣に並んだナギ先輩が、徐に俺の腰を抱く。

「ちょ、ちょっと……」
「ふーん」

 気のない返事と冷めた視線。だけどその目はすぐに、先輩へ向けられた。

「てか、篤志のこと馴れ馴れしく呼ばないでくれます? あとその手、なに」
「わあー。その目、ゾクゾクしちゃう」

 あぁ、また。俺の入り込めない空気だ。
 先輩をジッと見下ろして、そんな航太朗を見上げながらナギ先輩がクスクス笑う。
 悔しい。無意識に見せつけられてる気がして、醜い感情の塊が喉の奥から込み上げてくる。
 二人が目の前で話していることも、頭の中がモワモワしているせいで内耳が勝手に閉じたようになって、上手く聞こえない。

「はあー楽しかった! じゃあまたね。篤志くんも」

 航太朗の胸を、ナギ先輩の手がスルリと撫でていく。そして俺の横を通り過ぎる時、先輩は俺の耳に顔を寄せて、そっと囁くように息を吹き込んできた。

「お尻の開発、がんばってね。あぁそれと。俺とどんなプレイしてるのか知りたいなら、コータに聞いてみるといいよ。耐えられるかな~? あっくんは」

 その瞬間、先輩の手が巧みなほどさりげなく、俺の尻を撫で上げていく。

「ひっ!」

 爪先から頭のてっぺんまで、ビリリと震えてカラダが粟立った。
 そんな俺を挑発するかのように、綺麗な笑顔でウインクをして、ナギ先輩は足取り軽く去っていく。その後ろ姿は明らかに『楽しい』と言っているみたいだ。

 なんだよ。なんなんだよあの人、腹立つ。

「なに言われた?」
「別に。大したことじゃない」
「大したことじゃない? 顔、赤いけど」
「っ……!」

 ナギ先輩の後ろ姿を睨みつけたままそっけない返事をしたら、片手の指先で両方の頬を挟まれた。強制的に航太朗の方へ向かされ、バチッと合ったその目に、息が詰まる。
 眉間にシワ寄ってる。唇ちょっと尖らせて、航太朗の視線が痛いくらいに俺を刺してくる。
 なんでそんな顔してるの。怒ってる? 俺がナギ先輩と話したから? そんなにあの人のこと気に入ってるの?
 顔が赤いのはきっと、航太朗にお尻を開発してもらうことを想像しちゃったからだ。それをあの人が煽るから、余計に。こんなこと、本人に言えるわけないだろ。

「ほんとに、なんでもないから」

 俺は航太朗の視線から逃れたくて、目を瞑りながら顔を振って手を払った。

「っそれより、航ちゃんも講義終わったとこ?」
「そう。んで今日はこれで終わりだから、ごはん食って帰るとこ」
「……もしかして、このあと誰かに会ったりする?」
「いや。今日はバイトもないしまっすぐ帰るよ」
「そっか」

 なんだか妙にホッとした。航太朗の予定が、何もないことに。

「あっくんは午後もあるの?」
「うん。だからメシ食おうかなって」
「……一緒に行く? 学食」
「えっいく!」
「ふはっ。即答だ」

 俺のデカすぎる返事を聞いて、航太朗が笑う。目を細めて口を開けたその笑顔にすら俺の胸はキュンってなるんだから、これは相当気を付けないといつかボロがでるかもしれない。

「じゃ、行こうか」

 航ちゃんはそう言って俺の目を見ながら、ポムッと肩を組んだ。ちょっと機嫌が直ったのか、足取りも軽い。

 そうだそういえば、航ちゃんってこんな感じだった。
 俺のせいでずっと、変なお願いをしてからずっと苦しい表情ばかりさせてたけど、高校の時はもっと明るい顔をしてたなって今、思い出した。

 進展して良かったって、前向きに捉えてもいいってことかな?
 この笑顔がまた見られるようになったんだから、セフレの一人にしてもらえたこと、素直に喜んでいいのかもしれない。

 航太朗の笑顔は、何としても護らなきゃ。奪ってしまったのは俺だけど、だからこそもう、俺のせいで失ってなんて欲しくない。
 だから俺は、セフレたちの中の一番になれるように、がんばらないと。

「あっくんどした?」

 学食に向かう道中、航太朗の横顔を見ながらつい黙りこくってしまった。そんな俺の視線に気付いた航太朗が振り返って、バチッと目が合う。

「航ちゃん。俺、頑張るからね!」
「ん? お、おぉ……え、なにを?」

 そうだ。プレイの事とかもっと勉強しよう。囲ってもらえることになったからには、男同士の楽しみ方をちゃんと知って、航ちゃんを満足させてあげるんだ。
 そしたらいつの日か、先輩も他の人たちも必要なくなって、俺だけの航ちゃんになってくれたりしないかな。「あっくんしかいらない」って。そう言ってもらえる日がくるように、しっかり精進しなきゃ。
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