彼女持ちのドМな親友の願望を叶えてあげる健気で哀れな俺の話

朝賀 悠月

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航ちゃんに視姦されてみたい

ナギ先輩の反撃

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「え……」

 先輩の目つきが、変わった。
 煽っていたのは俺のはずなのに、この人の放つ雰囲気みたいなもので、形勢がすんなり逆転してしまったのがわかった。
 その目はまるで、獲物を見つけた肉食獣。

「で? なんだっけ、キス? 甘いなぁ、それじゃまだセフレとは呼べないね。お尻使うまでいかないと」
「お、尻……」
「そう、男同士のセックスは、お尻を使うんだよ。知ってる?」
「っ、それぐらい知ってます!」
「ほんとにぃ? 篤志くんのお尻の小さい穴にぃ、コータの太ぉいのが入るんだよ? 想像とかちゃんとできてる?」

 突然饒舌になって、想像を掻き立てるような言葉をわざと使って俺を煽る。ニヤついた顔でジリジリ迫られ、後ろのベンチに追いやられた俺は、動揺を隠せないまま尻餅をついてしまった。

「ふふ、大事だよぉ? イメージトレーニング」

 いやらしい目をした顔が鼻先を掠める距離まで近づいて、一層楽しそうに口角を上げる。

「……せ、先輩は、あるんですか? 航ちゃんと……」
「さあ、どうだろうねぇ? ライバルのそう言うのって、聞いても大丈夫なタイプ?」
「……っ、ムリなタイプです」
「じゃあ聞くのやめておいた方がいいんじゃない?」

 フッと鼻で息を吐くように笑われた。つまりその反応は、したことがあるってことだ。航ちゃんと、セックス。
 悔しい。くそ、負けてる。
 俺が思わず睨みつけると、ナギ先輩の表情は何故か、眉を下げて柔らかくなった。

「まあ、お尻の準備くらいは自分で出来るようになっておいた方がいいね。やり方わかる?」
「っこれから調べますよ」
「そっか。ネットで簡単に出てくると思うけど……あ。それとも、俺が教えてあげようか」

 ベンチに隣り合って座ったと思ったら、耳元に唇を寄せてきて、艶のある声で囁かれた。

「まずはぁ……」
「いっ……いいです!」
「ええー。残念だなぁ」

 クスクス笑うナギ先輩。知識のない俺をからかって楽しんでるんだ、ほんと腹立つこの人。

「まあ準備のやり方で不安になったら、優しい航太朗くんに相談するといいよ。手取り足取り、教えてくれるんじゃない?」
「手取り、足取り……」

 航ちゃんのことだから、俺がお願いすればきっと丁寧にアレコレしてくれるんだと思う。お尻の洗い方から、ほぐし方まで、丁寧に。でもだからこそ、甘えるわけにはいかない。これはセフレにしてもらった俺の決意。『ノンケ』ってやつの俺でも他の人たちと対等になるため。航ちゃんに迷惑は掛けないって。だけど……
 どんなふうに教えてくれるかなってうっかり想像してしまって、股間がズグンと疼く。

「ふふっ、想像した?」
「っ……」

 ナギ先輩の顔が俺を覗き込んで、ニヤリと笑う。
 悔しい、悔しいっ。まただ。完全に弄ばれてる、俺。
 この何とも言えない恥辱感に、思わず俯いて膝の上で拳を握りしめたら、先輩は俺の肩にもたれ掛かって吹き出すように笑った。

「はあー。かわいいなぁ、篤志くんは」
「……性格悪いって言われませんか」
「ん? 良く言われるぅー」
「でしょうね。なんで航ちゃんはあなたなんかと」
「だぁから言ってるでしょ? プレイだって」
「そのプレイってなんなんですか。しょっちゅう二人で一緒にいるし」
「お。ヤキモチだ」
「……っ、はぐらかさないでください」
「口尖らせて、あっくんかぁわいいー」
「っ、先輩!」

 もうやだ、このひと。ニヤニヤコロコロ。まるで手の中で転がされてる気分だ。
 オモチャのように扱われてついムキになってしまった俺の頬を、先輩の手が宥めるように撫でてくる。

「ふふ、ごめんごめん。そんなに知りたいの?」
「知りたいです」
「ライバルなんでしょ? 聞くのムリなんじゃなかった?」
「ムリだけど……でもやっぱり知らないと、一番にはなれないから……」

 セフレの中で一番。その意味を汲み取ったのか、先輩の眉がピクリと寄って、また表情が曇った気がした。

「プライバシーの観点から失礼なこと聞いているのは自覚しています。でももし先輩が無理でなければ」
「あっくん?」

 ナギ先輩に改めて詰め寄ろうと膝を突き合わせた瞬間、ふいにどこかから、航太朗の声が聞こえてきた。
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