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キミのそばにいられるなら何だって叶えてあげよう
あっくん、ちゃんと話をしよう
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夜、バイトを終えてマンションに帰り、俺はその足で篤志の家へ向かった。
あのあとすぐに『ちゃんと話をしよう』と送ったけれど、『もういいって。大丈夫だから』と返ってきて以降、どんなにメッセージを送っても既読は付かなかった。だから俺は直接行くことにした。
インターホンを鳴らしても、応答はない。二度目、三度目と鳴らしても、やはり返事はない。バイトの予定はないはずなので、出掛けてまだ戻らないのだろうと、俺はただひたすら、篤志の家の前で待つことにした。
それから暫く待っているとエレベーターホールから出てくる人影。俯きがちでも、その歩く姿でわかる。篤志だ。やっと帰ってきた。だけど悟られたら逃げられてしまうだろうから、俺は身を屈めてなりを潜め、静かに近づいてくるのを待った。
何か、あったのだろうか。視線を落として俯いたまま、トボトボと歩いてくる。思い悩んでいるような顔をして、背中を小さく丸めている。
「……篤志」
俺の存在に気付くことなく家の前まで帰ってきた篤志に声を掛けると、ハッと顔を上げて俺を見た瞬間、なんとも複雑な顔をして眉間に皺を寄せ、瞳を潤ませた。
「航ちゃん……」
目を細め、口をへの字に曲げる。すると次の瞬間にはハッとした顔をして俺に背を向け、手早く鍵を開けて急ぎ家の中へ逃げ込もうとするから、俺はすぐにその腕を捕まえて引き寄せた。
「イタッ、はなせよ!」
「やだ、離さない。あのまま終わりなんて、俺は嫌だ」
「っ……だから、もう迷惑かけたくないからって」
「だから俺は! 迷惑だなんて思ってないって言ってるだろ。なんで勝手にそうやって決めつけるの」
「だって! ……だって昨日、拒否したじゃん。俺が航ちゃんの」
「待ってストップ!」
俺は慌てて篤志の口を手で塞いだ。
「ここで話す内容じゃないから、取り敢えず家、入れてくれない?」
声を潜めてそう言うと、篤志は俺の目を見ながらゆっくり頷き、黙って家に上げてくれた。
玄関ドアが閉まるのを背中越しに確認して、後ろ手に鍵を締める。目の前に立つ篤志は、居心地悪そうに目を反らしている。
「ありがと」
「ん……」
どれだけ見つめても、一向に視線が合わない。
「……迷惑じゃなかったら、なんで拒否したんだよ」
「それは……」
本当のことなんて言えるはずもなくて、思わず口籠ってしまう。そんな俺に痺れを切らしたのか、せっかく顔を上げてくれたのに、篤志のその眼差しは冷たい。
「……なに」
「ごめん」
「何が?」
「えっと……」
苛ついた様子で、篤志は俺を睨みつけるように見ている。だから俺は咄嗟に、別の理由を口にしていた。
「冗談だと、思ったんだ」
「は?」
「だって篤志はノンケで彼女もいるのに、そんな、男のちんこしゃぶってみたいなんて」
「男じゃなくて、航太朗のだよ」
盛大な溜息を吐いた後、また睨みつけるような視線。
「それにもう、女の子とは別れたから」
「え……」
「こだわることも引っ掛かるワードも消えたけど、それでもダメなの?」
「っ……」
篤志に、引き下がる様子はない。どんな理由を並べ立てても、きっと今の篤志にはなんの効果もないだろう。
でもこんなにも頑固なのは、どうしてなんだろう……
「ねえなんで? 他の人たちは航太朗のしゃぶってるんでしょ? あの先輩も。だったら俺だっていいじゃん」
「……篤志はなんで、そんな必死なの」
「それは……っ、だってズルい。航ちゃんは俺の親友なのに、俺に見せてくれない航ちゃんがいて、他の人はそれを知ってるとか、ムカつくし」
「なにそれ……」
それは、嫉妬してるってこと? 篤志は無意識に、ヤキモチやいてくれてるの?
まさかそんなはずない。だって……
「あっくんは、ゲイじゃないでしょ?」
「出た。またそうやって急に壁作るじゃん」
「俺は親友のあっくんのお願いだから、あっくんを気持ちよくしてあげたくて色々してきたけど、コッチ側じゃないあっくんにちんこしゃぶらせるって、さすがに意味が違ってきちゃうから……」
好きな人と思いが通じ合ってするのと、プレイは違う。決して交わることのない思いを抱えながら篤志に性器を咥えられるのは、プレイとはまた違う意味を持ってしまう気がする。罪悪感を抱えながら、篤志を俺の体液と精液で汚すくらいなら、綺麗なままでいてほしい。
――汚すって言うけどさ、二人がしてることは違うの? すでに汚してることない?
ふいにナギ先輩の声が、頭の中に聞こえてくる。
違う。そう頭では否定しても、心の奥底ではもう手遅れだと、本当はわかっていた。篤志のお願いを聞いているなんて都合のいい体裁に溺れて、単に自分の願望を叶えているだけだってことも。
だからこれ以上は道を踏み外さないように、篤志が道を間違えないようにって、必死で言い訳を並べ立ててただけなんだ。
あのあとすぐに『ちゃんと話をしよう』と送ったけれど、『もういいって。大丈夫だから』と返ってきて以降、どんなにメッセージを送っても既読は付かなかった。だから俺は直接行くことにした。
インターホンを鳴らしても、応答はない。二度目、三度目と鳴らしても、やはり返事はない。バイトの予定はないはずなので、出掛けてまだ戻らないのだろうと、俺はただひたすら、篤志の家の前で待つことにした。
それから暫く待っているとエレベーターホールから出てくる人影。俯きがちでも、その歩く姿でわかる。篤志だ。やっと帰ってきた。だけど悟られたら逃げられてしまうだろうから、俺は身を屈めてなりを潜め、静かに近づいてくるのを待った。
何か、あったのだろうか。視線を落として俯いたまま、トボトボと歩いてくる。思い悩んでいるような顔をして、背中を小さく丸めている。
「……篤志」
俺の存在に気付くことなく家の前まで帰ってきた篤志に声を掛けると、ハッと顔を上げて俺を見た瞬間、なんとも複雑な顔をして眉間に皺を寄せ、瞳を潤ませた。
「航ちゃん……」
目を細め、口をへの字に曲げる。すると次の瞬間にはハッとした顔をして俺に背を向け、手早く鍵を開けて急ぎ家の中へ逃げ込もうとするから、俺はすぐにその腕を捕まえて引き寄せた。
「イタッ、はなせよ!」
「やだ、離さない。あのまま終わりなんて、俺は嫌だ」
「っ……だから、もう迷惑かけたくないからって」
「だから俺は! 迷惑だなんて思ってないって言ってるだろ。なんで勝手にそうやって決めつけるの」
「だって! ……だって昨日、拒否したじゃん。俺が航ちゃんの」
「待ってストップ!」
俺は慌てて篤志の口を手で塞いだ。
「ここで話す内容じゃないから、取り敢えず家、入れてくれない?」
声を潜めてそう言うと、篤志は俺の目を見ながらゆっくり頷き、黙って家に上げてくれた。
玄関ドアが閉まるのを背中越しに確認して、後ろ手に鍵を締める。目の前に立つ篤志は、居心地悪そうに目を反らしている。
「ありがと」
「ん……」
どれだけ見つめても、一向に視線が合わない。
「……迷惑じゃなかったら、なんで拒否したんだよ」
「それは……」
本当のことなんて言えるはずもなくて、思わず口籠ってしまう。そんな俺に痺れを切らしたのか、せっかく顔を上げてくれたのに、篤志のその眼差しは冷たい。
「……なに」
「ごめん」
「何が?」
「えっと……」
苛ついた様子で、篤志は俺を睨みつけるように見ている。だから俺は咄嗟に、別の理由を口にしていた。
「冗談だと、思ったんだ」
「は?」
「だって篤志はノンケで彼女もいるのに、そんな、男のちんこしゃぶってみたいなんて」
「男じゃなくて、航太朗のだよ」
盛大な溜息を吐いた後、また睨みつけるような視線。
「それにもう、女の子とは別れたから」
「え……」
「こだわることも引っ掛かるワードも消えたけど、それでもダメなの?」
「っ……」
篤志に、引き下がる様子はない。どんな理由を並べ立てても、きっと今の篤志にはなんの効果もないだろう。
でもこんなにも頑固なのは、どうしてなんだろう……
「ねえなんで? 他の人たちは航太朗のしゃぶってるんでしょ? あの先輩も。だったら俺だっていいじゃん」
「……篤志はなんで、そんな必死なの」
「それは……っ、だってズルい。航ちゃんは俺の親友なのに、俺に見せてくれない航ちゃんがいて、他の人はそれを知ってるとか、ムカつくし」
「なにそれ……」
それは、嫉妬してるってこと? 篤志は無意識に、ヤキモチやいてくれてるの?
まさかそんなはずない。だって……
「あっくんは、ゲイじゃないでしょ?」
「出た。またそうやって急に壁作るじゃん」
「俺は親友のあっくんのお願いだから、あっくんを気持ちよくしてあげたくて色々してきたけど、コッチ側じゃないあっくんにちんこしゃぶらせるって、さすがに意味が違ってきちゃうから……」
好きな人と思いが通じ合ってするのと、プレイは違う。決して交わることのない思いを抱えながら篤志に性器を咥えられるのは、プレイとはまた違う意味を持ってしまう気がする。罪悪感を抱えながら、篤志を俺の体液と精液で汚すくらいなら、綺麗なままでいてほしい。
――汚すって言うけどさ、二人がしてることは違うの? すでに汚してることない?
ふいにナギ先輩の声が、頭の中に聞こえてくる。
違う。そう頭では否定しても、心の奥底ではもう手遅れだと、本当はわかっていた。篤志のお願いを聞いているなんて都合のいい体裁に溺れて、単に自分の願望を叶えているだけだってことも。
だからこれ以上は道を踏み外さないように、篤志が道を間違えないようにって、必死で言い訳を並べ立ててただけなんだ。
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