彼女持ちのドМな親友の願望を叶えてあげる健気で哀れな俺の話

朝賀 悠月

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キミのそばにいられるなら何だって叶えてあげよう

あっくん、何言ってるの?

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「コータ、後ろ」
「え? あっ……」

 先輩の言葉に振り返ると、すごく不機嫌な顔をした篤志が、俺の後ろに立っていた。

「篤志……」
「昨日、携帯忘れてった」
「あ、あぁ……はい、これ」
「……ども」

 短い言葉を放って、気まずそうに俺からスマホを受け取る。

「もしかして、今来た?」
「うん」
「そっか。朝から探してたけど見当たらなかったから……よかった、会えて」
「朝からって……だって航ちゃん今日一限は」
「ん?」
「……いやなんでもない」

 何かを言い掛けて口籠る。そして一度ナギ先輩に鋭い視線を向けると、受け取ったスマホを操作しながらとんでもないことを口にした。

「そうだ。ついでだから航太朗の使ってるアプリ、教えてよ」
「……は?」

 これにはさすがの先輩も驚いたみたいで、身を乗り出したのが目の端に映る。

「え、何言ってんの」
「試してみるから。航太朗以外の人でも大丈夫か。それでイケるんだったら、今度から俺もアプリで相手探すし」
「ダメだよ、そんなの」
「なんでダメって言うの? 航太朗に俺の自由を奪う権利なくない?」
「……っ、れは……そうだけど――……彼女に知られたらどうするの」

 そのワードを聞いた途端、篤志の手が止まった。眉間に皺を寄せ、瞳を揺らしながら無言で俺を見つめてくる。

「篤志くん、早まらない方がいい」
「関係ないでしょ! あなただって航ちゃんと……っ」

 それ以上を言い掛けて、下唇を噛む。

「もう、航太朗に迷惑かけないって言っただろ」
「だから、俺は迷惑だなんて思ってないって!」

 俺は篤志の腕を強く掴んだ。自棄になってる。昨日アレを断っただけで、どうしてこんなにも……
 急展開なこの状況は理解が難しくて、俺はつい掴んでいる手に力が入ってしまう。

「……っ痛い。離せよ」

 その手を篤志は振りほどいた。まるで俺を、拒絶するみたいに。

「……まいいや。あとでアプリのリンク送って。じゃ」

 結局篤志は俺の顔を見ずに、冷たく言い放って行ってしまった。

「はぁー……こじれてんねぇ~……」

 先輩が、溜め息交じりに言う。
 俺は呆気に取られていた。というより、混乱と戸惑いで動けなくなっていた。

「一限、なかったんだ?」
「そう。だけど篤志が困ると思って早く来て……」
「ふう~ん」
「……なんすか」
「いや別にぃ」

 椅子の背もたれに寄り掛かって腕を組み、ナギ先輩はニヤリと笑う。

「ほんと、どうすればいいんだろ……」
「そんなの、多少強引でも直接ちゃんと話するしかないでしょ」

 そうは言われても、あれだけ拒絶されていたらとてもじゃないけど聞いてもらえる気がしない。

「弱気になるなよ。ずっと好きだった人をこんな形で手放すのか? 絶対後悔するぞ」
「わかってますよ、んなこと」
「だったら意地でも食らいつけよ。カッコ悪いとこ見せてでもさ」

 そうだ。なりふり構ってられないのは解ってる。言われたままアイツに従って、後悔なんてしたくない。篤志のそばに居ることだけは、絶対に諦めたくないんだ。カッコ悪くても、何があっても。

「ねえコータ。恋は盲目って言うけどさ、やっぱ君ら、ちょっと変な方向に行ってるんじゃないかなって思うよ、俺は」

 そう言ってナギ先輩は、コップに残った水を飲み干した。

「ま、二人が決めた関係性に部外者の俺がどうこう言える立場でもないけどね」

 ごちそうさまでした、と手を合わせ、先輩は席を立つ。

「俺は修正できないことないと思うけどね、コータと篤志くんは」

 トートバッグを肩に掛け、椅子を戻してトレーを持ち上げる。それを見計らったように二人の女子がナギ先輩に寄ってきた。

「灘木先輩! サークルのことでお話、いいですか?」
「うん、いいよ~。じゃあまたね、ちゃんと話し合いなよ」

 ナギ先輩の後ろを、女子が付いて歩く。俺はその後ろ姿を見送りながら、思わず溜め息が零れ出た。
 あんな感じで、話なんて聞いてくれるだろうか。いや、聞いてくれなきゃ困る。篤志が何と言おうとどれだけ拒まれようと、俺は、俺が、離れたくないんだから。

 とにかく今日、もう一度ちゃんと話をするんだ。


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