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キミのそばにいられるなら何だって叶えてあげよう
プレイメイトのナギ先輩
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こんな日に限って、講義の時間が被らない。
唯一の連絡手段は俺が持っているし、朝から篤志を探しているのに、広い校内じゃ見つけようもない。あいつだってスマホが無いと不便だろう。このまま会えなかったらやっぱり、家に行ったほうがいいかもしれないな。
そんなことを思いつつ俺は、篤志のスマホを手に握りながら、二時限目の講義を終えて学食に向かった。
約束をしていた窓際の席を探すと、先に俺を見つけたナギ先輩が立ち上がって手を振っている。
「コータ!」
ファッション雑誌に載ってる読モかってくらい整った容姿をしているナギ先輩は、存在自体が注目の的だ。そんな人が俺とプレイをしている仲だなんて、誰も想像は出来ないだろう。実際、俺が先輩のところへ行けば学食にいる女子たちの視線が痛いほど刺さってくる。
「ども」
「昼飯買ってきたら? 今日はB定がステーキだったよ」
「先輩は、クリームパスタですか?」
「そう。同じのにする?」
「いえ、B定にします」
「ははっ、相変わらず塩だねー」
俺が冷めた態度を取っても、この人は気にせず笑う。そういうところが、居心地よかったりする。
食券を買って定食コーナーのカウンターに出しステーキ定食を受け取ると、トレーの上に水を乗せて席に戻る。ふと顔を上げてその場所を見たら、俺がいない隙に先輩は女の子に声を掛けられていて、「うん、ごめんね~」と断りを入れる声が聞こえてきた。
「またお誘いですか?」
「そう。飲み会という名の合コン。毎回断ってるんだからいい加減広まってくれてもいいんだけどねぇ~。あの人は誘ってもダメとか、女子に興味ないんじゃない? とかさ」
「いいんですか?」
「全然いいよ。俺は隠す気ないし。聞かれれば答えるけど、聞かれないから言わないだけ」
モテる人は大変だ。自らゲイだと公表しない限り、いつまでもこうした問題が付き纏う。
「コータも大変でしょ。言い寄ってくる女の子、いるんじゃない?」
「俺は、こんなんなんで。寧ろ寄り付かれなくて助かってます」
「あー……そか。あからさまだもんね、態度」
クスクス笑いながらフォークでパスタを巻いている。この人の言う『あからさま』というのは、篤志とそれ以外への態度のことを言っているのだろうか。まあその自覚はあるけど。
「で? その彼と終わったって?」
「……はい」
「なに、何があってそんなことになっちゃったの」
「なん……ですかね。なんか、怒らせたみたいで」
「……まさか。嫌がることした?」
「いやまさか。悦ばせることしか」
「わお」
先輩は外国人みたいな反応をして、パスタを頬張る。
「じゃあなんでだろね」
鉄板の上でジューと音を立てているカットステーキ。ソースを掛けると熱せられた鉄板はさらに大きな音で鳴り、香ばしい香りが漂ってくる。
「……実は……俺のをしゃぶってみたいって、言われたんですよね」
「んんっ? げほっ」
サラッと伝えてカットステーキを箸で摘まみ、口の中へ。しかし俺の言葉を聞いたナギ先輩は、パスタに絡んだクリームが気管に入ったのか、思い切りむせていた。
「しゃぶっ……て、どういうこと?」
「わかんないっす。急に言われたから俺もビックリして」
鉄板で焼かれた熱いステーキが、噛むたびに口の中で肉汁を放つ。ご飯を一口頬張ったら、ナギ先輩がジィッと俺を見ていることに気が付いた。
「それで、コータはどうしたの」
「どうもしないですよ。だってそんな、あっくんを汚すようなことさせられないし。だから、あっくんはダメって言って……そしたらなんか、怒り出しちゃって……」
なんで突然、あんなふうに怒りだしたんだろう。俺はただ、アプリで知り合ってプレイしてる人たちとは違うから、あっくんは特別だから、俺の性器をしゃぶるなんてそんなこと、おこがましくてさせられない。そう思ってダメって言ったんだ。それなのに……
冗談にしても何で、あんな苦しそうな顔してたんだろう。
「汚すって言うけどさ、二人がしてることは違うの? すでに汚してることない?」
「それは……篤志が望むから、俺はそれを叶えてあげてるだけなので……」
「その彼が望んだことなのに、しゃぶるのはダメなの?」
「ダメでしょ。だって、ちんこですよ? ノンケで彼女がいるあいつに、興味本位でそんなことさせられない」
「じゃあ、彼女がいなきゃいいの? 篤志くんがコッチの人間だったら普通に許した?」
「……なんなんですか、あんたさっきから」
まるで尋問だ。俺の心の奥底を探って引っ張り出そうとしてるみたいで、すごく心地が悪い。
「まあそう怒るなよ。ほら、ステーキ冷めちゃうよ」
そうやって軽くあしらって、微笑を浮かべながら自らもパスタを頬張る。
こうしたなんの気遣いも遠慮もない絶妙な性格の悪さが、時折腹立たしい。でもこういう人だから、俺も明け透けに話せるってのもあるんだけど。
付け合わせのニンジンを食べてステーキとご飯を口に入れ咀嚼しながら軽く睨みつけたら、水を飲んでいたナギ先輩がその視線に気付いてニコリと微笑む。
「まじ性格悪いっすね」
「いい性格って言ってよ。こういう性格だから、コータも居心地よくて長く付き合ってくれてるんでしょ?」
「……くそっ」
「プレイ以外でも会ってるんだから、もうトモダチじゃん。俺、親友には遠慮しない主義なの」
「話の中で段階踏んでランクアップすんのやめてもらっていいっすか」
頬杖をついてクスクス笑いながら俺を見てる。まるで、俺の心の中を見透かすみたいに。
俺はそれも癪で定食を黙々と食べ進めながら睨み続けてみるけれど、それでもこの人は楽しそうな笑みを浮かべている。
もういいやと味噌汁を手に取り啜っていると、ふと先輩が何かに気付き顔を上げた。
唯一の連絡手段は俺が持っているし、朝から篤志を探しているのに、広い校内じゃ見つけようもない。あいつだってスマホが無いと不便だろう。このまま会えなかったらやっぱり、家に行ったほうがいいかもしれないな。
そんなことを思いつつ俺は、篤志のスマホを手に握りながら、二時限目の講義を終えて学食に向かった。
約束をしていた窓際の席を探すと、先に俺を見つけたナギ先輩が立ち上がって手を振っている。
「コータ!」
ファッション雑誌に載ってる読モかってくらい整った容姿をしているナギ先輩は、存在自体が注目の的だ。そんな人が俺とプレイをしている仲だなんて、誰も想像は出来ないだろう。実際、俺が先輩のところへ行けば学食にいる女子たちの視線が痛いほど刺さってくる。
「ども」
「昼飯買ってきたら? 今日はB定がステーキだったよ」
「先輩は、クリームパスタですか?」
「そう。同じのにする?」
「いえ、B定にします」
「ははっ、相変わらず塩だねー」
俺が冷めた態度を取っても、この人は気にせず笑う。そういうところが、居心地よかったりする。
食券を買って定食コーナーのカウンターに出しステーキ定食を受け取ると、トレーの上に水を乗せて席に戻る。ふと顔を上げてその場所を見たら、俺がいない隙に先輩は女の子に声を掛けられていて、「うん、ごめんね~」と断りを入れる声が聞こえてきた。
「またお誘いですか?」
「そう。飲み会という名の合コン。毎回断ってるんだからいい加減広まってくれてもいいんだけどねぇ~。あの人は誘ってもダメとか、女子に興味ないんじゃない? とかさ」
「いいんですか?」
「全然いいよ。俺は隠す気ないし。聞かれれば答えるけど、聞かれないから言わないだけ」
モテる人は大変だ。自らゲイだと公表しない限り、いつまでもこうした問題が付き纏う。
「コータも大変でしょ。言い寄ってくる女の子、いるんじゃない?」
「俺は、こんなんなんで。寧ろ寄り付かれなくて助かってます」
「あー……そか。あからさまだもんね、態度」
クスクス笑いながらフォークでパスタを巻いている。この人の言う『あからさま』というのは、篤志とそれ以外への態度のことを言っているのだろうか。まあその自覚はあるけど。
「で? その彼と終わったって?」
「……はい」
「なに、何があってそんなことになっちゃったの」
「なん……ですかね。なんか、怒らせたみたいで」
「……まさか。嫌がることした?」
「いやまさか。悦ばせることしか」
「わお」
先輩は外国人みたいな反応をして、パスタを頬張る。
「じゃあなんでだろね」
鉄板の上でジューと音を立てているカットステーキ。ソースを掛けると熱せられた鉄板はさらに大きな音で鳴り、香ばしい香りが漂ってくる。
「……実は……俺のをしゃぶってみたいって、言われたんですよね」
「んんっ? げほっ」
サラッと伝えてカットステーキを箸で摘まみ、口の中へ。しかし俺の言葉を聞いたナギ先輩は、パスタに絡んだクリームが気管に入ったのか、思い切りむせていた。
「しゃぶっ……て、どういうこと?」
「わかんないっす。急に言われたから俺もビックリして」
鉄板で焼かれた熱いステーキが、噛むたびに口の中で肉汁を放つ。ご飯を一口頬張ったら、ナギ先輩がジィッと俺を見ていることに気が付いた。
「それで、コータはどうしたの」
「どうもしないですよ。だってそんな、あっくんを汚すようなことさせられないし。だから、あっくんはダメって言って……そしたらなんか、怒り出しちゃって……」
なんで突然、あんなふうに怒りだしたんだろう。俺はただ、アプリで知り合ってプレイしてる人たちとは違うから、あっくんは特別だから、俺の性器をしゃぶるなんてそんなこと、おこがましくてさせられない。そう思ってダメって言ったんだ。それなのに……
冗談にしても何で、あんな苦しそうな顔してたんだろう。
「汚すって言うけどさ、二人がしてることは違うの? すでに汚してることない?」
「それは……篤志が望むから、俺はそれを叶えてあげてるだけなので……」
「その彼が望んだことなのに、しゃぶるのはダメなの?」
「ダメでしょ。だって、ちんこですよ? ノンケで彼女がいるあいつに、興味本位でそんなことさせられない」
「じゃあ、彼女がいなきゃいいの? 篤志くんがコッチの人間だったら普通に許した?」
「……なんなんですか、あんたさっきから」
まるで尋問だ。俺の心の奥底を探って引っ張り出そうとしてるみたいで、すごく心地が悪い。
「まあそう怒るなよ。ほら、ステーキ冷めちゃうよ」
そうやって軽くあしらって、微笑を浮かべながら自らもパスタを頬張る。
こうしたなんの気遣いも遠慮もない絶妙な性格の悪さが、時折腹立たしい。でもこういう人だから、俺も明け透けに話せるってのもあるんだけど。
付け合わせのニンジンを食べてステーキとご飯を口に入れ咀嚼しながら軽く睨みつけたら、水を飲んでいたナギ先輩がその視線に気付いてニコリと微笑む。
「まじ性格悪いっすね」
「いい性格って言ってよ。こういう性格だから、コータも居心地よくて長く付き合ってくれてるんでしょ?」
「……くそっ」
「プレイ以外でも会ってるんだから、もうトモダチじゃん。俺、親友には遠慮しない主義なの」
「話の中で段階踏んでランクアップすんのやめてもらっていいっすか」
頬杖をついてクスクス笑いながら俺を見てる。まるで、俺の心の中を見透かすみたいに。
俺はそれも癪で定食を黙々と食べ進めながら睨み続けてみるけれど、それでもこの人は楽しそうな笑みを浮かべている。
もういいやと味噌汁を手に取り啜っていると、ふと先輩が何かに気付き顔を上げた。
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