チョコよりも甘い恋

朝賀 悠月

文字の大きさ
上 下
14 / 20
初恋と、失恋

4-2

しおりを挟む
 駅までの道程は、時間にして十分くらい。その道を、並んでゆっくり歩きながら、戸山と北野は進級製作についての話をした。
 戸山がこの一年でどんな写真を撮ってきたのか、北野はデザインの授業が好きで先生から高評価を得るほど、実は得意であるということ。自分の未だ知らない北野を知れて、戸山の心は充実感に満ち溢れていた。

「……この間の続き、じゃないんだけどさ」
「うん?」

 駅前アーケードを歩きながら、少しの沈黙の間を埋めるように、ふいに北野が口を開いた。

「恋とか愛とか、良くわからないって言ってたでしょ?」
「うん」
「例えばさ、あーこういう人好きだな……っていうのも、思ったことないの?」
「それは……」

 聞かれた瞬間、戸山の脳裏に浮かんだのは、北野の見せるたくさんの笑顔。

「ある、かも……」
「そっか、それはあるのかぁ……」

 自分で聞いておきながら、戸山の『ある』の答えに残念な思いが胸を占めて、北野は苦笑気味に目を伏せる。

「北野は?」
「僕も、あるよ。心に芯がしっかりあって、普段と仕事モードの時のギャップがすごくて……でもそれが、可愛いなって、思ってる」

 自分で聞いてみたくせに、具体的な答えを持ち出されてしまって戸山の胸はキリッと痛み、上手く笑えもせずに目を伏せる。

「へぇー……」

 胸が、ジクジクと痛むのが、止まない。

「じゃあ顔も可愛いの?」
「そうだね。……ふふっ、顔も可愛いよ」
「面食いそうだもんな、北野」
「そうかな?でも、一番は中身だよ」

 お互いに顔も上げられず、目も合わせられないままいつの間にか駅の構内に着いた。

「……じゃあ、また明日」
「うん」

 北野は妙に落ち込んだ様子の戸山を改札前で見送ると、そのまま構内を突き抜けて、反対側にある自宅へと重たくなった足を運んだ。

「同じ仕事してる子、なのかな……」

 同じように帰宅する人たちで混み合う電車に揺られながら、北野が言っていた具体的な言葉を思い出す。
 戸山は僅かな知識の中から北野と接点のありそうな芸能人の女の子を、脳内で検索してみた。
 思い付くような子は出てこなかったけれど、きっと自分の知らない人なのだろうな、と思ったらまた胸がキリリと痛んだので、詮索するのはやめにした。
 扉のそばに立って、気怠くなる体を押し付けるようにして凭れ掛かりながら、額をコツン、と冷たい扉に押し当てた。
 僅かな隙間から入り込んでくる冷えきった風と凍てつくような扉の冷たさに、正気に戻れと言われているような気分になる。
 喉は締め付けられるように痛み、目頭まで熱くなってきて、戸山は静かに小さく鼻を啜った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

幼馴染みの二人

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
三人兄弟の末っ子・三春は、小さい頃から幼馴染みでもある二番目の兄の親友に恋をしていた。ある日、片思いのその人が美容師として地元に戻って来たと兄から聞かされた三春。しかもその人に髪を切ってもらうことになって……。幼馴染みたちの日常と恋の物語。※他サイトにも掲載 [兄の親友×末っ子 / BL]

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

処理中です...