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初恋と、失恋
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駅までの道程は、時間にして十分くらい。その道を、並んでゆっくり歩きながら、戸山と北野は進級製作についての話をした。
戸山がこの一年でどんな写真を撮ってきたのか、北野はデザインの授業が好きで先生から高評価を得るほど、実は得意であるということ。自分の未だ知らない北野を知れて、戸山の心は充実感に満ち溢れていた。
「……この間の続き、じゃないんだけどさ」
「うん?」
駅前アーケードを歩きながら、少しの沈黙の間を埋めるように、ふいに北野が口を開いた。
「恋とか愛とか、良くわからないって言ってたでしょ?」
「うん」
「例えばさ、あーこういう人好きだな……っていうのも、思ったことないの?」
「それは……」
聞かれた瞬間、戸山の脳裏に浮かんだのは、北野の見せるたくさんの笑顔。
「ある、かも……」
「そっか、それはあるのかぁ……」
自分で聞いておきながら、戸山の『ある』の答えに残念な思いが胸を占めて、北野は苦笑気味に目を伏せる。
「北野は?」
「僕も、あるよ。心に芯がしっかりあって、普段と仕事モードの時のギャップがすごくて……でもそれが、可愛いなって、思ってる」
自分で聞いてみたくせに、具体的な答えを持ち出されてしまって戸山の胸はキリッと痛み、上手く笑えもせずに目を伏せる。
「へぇー……」
胸が、ジクジクと痛むのが、止まない。
「じゃあ顔も可愛いの?」
「そうだね。……ふふっ、顔も可愛いよ」
「面食いそうだもんな、北野」
「そうかな?でも、一番は中身だよ」
お互いに顔も上げられず、目も合わせられないままいつの間にか駅の構内に着いた。
「……じゃあ、また明日」
「うん」
北野は妙に落ち込んだ様子の戸山を改札前で見送ると、そのまま構内を突き抜けて、反対側にある自宅へと重たくなった足を運んだ。
「同じ仕事してる子、なのかな……」
同じように帰宅する人たちで混み合う電車に揺られながら、北野が言っていた具体的な言葉を思い出す。
戸山は僅かな知識の中から北野と接点のありそうな芸能人の女の子を、脳内で検索してみた。
思い付くような子は出てこなかったけれど、きっと自分の知らない人なのだろうな、と思ったらまた胸がキリリと痛んだので、詮索するのはやめにした。
扉のそばに立って、気怠くなる体を押し付けるようにして凭れ掛かりながら、額をコツン、と冷たい扉に押し当てた。
僅かな隙間から入り込んでくる冷えきった風と凍てつくような扉の冷たさに、正気に戻れと言われているような気分になる。
喉は締め付けられるように痛み、目頭まで熱くなってきて、戸山は静かに小さく鼻を啜った。
戸山がこの一年でどんな写真を撮ってきたのか、北野はデザインの授業が好きで先生から高評価を得るほど、実は得意であるということ。自分の未だ知らない北野を知れて、戸山の心は充実感に満ち溢れていた。
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「へぇー……」
胸が、ジクジクと痛むのが、止まない。
「じゃあ顔も可愛いの?」
「そうだね。……ふふっ、顔も可愛いよ」
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「……じゃあ、また明日」
「うん」
北野は妙に落ち込んだ様子の戸山を改札前で見送ると、そのまま構内を突き抜けて、反対側にある自宅へと重たくなった足を運んだ。
「同じ仕事してる子、なのかな……」
同じように帰宅する人たちで混み合う電車に揺られながら、北野が言っていた具体的な言葉を思い出す。
戸山は僅かな知識の中から北野と接点のありそうな芸能人の女の子を、脳内で検索してみた。
思い付くような子は出てこなかったけれど、きっと自分の知らない人なのだろうな、と思ったらまた胸がキリリと痛んだので、詮索するのはやめにした。
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僅かな隙間から入り込んでくる冷えきった風と凍てつくような扉の冷たさに、正気に戻れと言われているような気分になる。
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